第8話

王女と話した後は勤務時間が終わるまでずっと待機して暇だった。

まぁしっかり給料出るからいいんだけどな。


仕事も終わったことだし、帰りに一杯ひっかけて帰るか。

そんなことを思いながら歩いていると、前から琴美がやってきた。


「よう、今日の訓練は終わったのか?」

「終わりましたよ。ゼスさん、この後暇ですか?」

「これから飲みに行こうとはしてるくらいだな。なんか用か?」

「前の事件について聞きたいと思いまして」

「そんなこと言われてもな、あれから新しい事件があったわけではないしな」


まぁそろそろ何かしら起きるとは思うが。

それを口にしてしまうと琴美が余計に興味を持つ可能性があるから言わないけど。


「用がそれだけなら俺は帰るぞ」

「待ってください。ゼスさんなら何かわかることもあるのかなって」

「買いかぶりだ。俺はただの城兵だぞ」

「いいから付き合ってください」


琴美の強引さに少し驚く。


「俺は酒を飲みたい。でもお前を外に連れ出すわけにもいかない」

「なら私の部屋で飲めばいいじゃないですか」

「買い出しが面倒なんだよ」

「なら私が買ってきます」

「未成年が何言ってんだ」


俺は琴美の頭にゲンコツを落とす。


「いたいです」

「酒は二十歳になってからだろうが」

「この国も二十歳からなんですか?」

「いやこの国は15から飲める」


まぁ15から飲めるが実際嗜むようになるのはもっと後。

15で飲む奴は大抵アルコールが気持ち悪くて次に飲むまで期間があきやすい。

慣れるのに結局3年はかかる。


「ならどうしてゼスさんは私の国では20歳からって知ってるんですか?」


あ、やべ。

俺の心の声が顔に出てしまったようで、琴美が俺に詰め寄ってくる。


「なんでゼスさん知ってるんですか???」

「前に文献で読んだんだよ。昔現れた勇者はお酒が飲めなかったってな。確か祝勝会の時に遠慮してたんだっけな」

「飲めなかっただけなら、規則で禁止されてるのか、お酒が弱くて飲めないのかわからないんじゃないですか?20歳にならないと飲めないって書いてあったんですか?」

「確かそう書いてあったぞ」


平静を装ってはいるが内心は冷や汗が止まらない。


「本当に書いてたんですか?」

「ああ。今度その文献見つけたらお前に見せてやるよ」

「そこまで言うならとりあえず納得はしておきます」


琴美の表情を見ると絶対に納得していない顔だった。

まぁ嘘だからな。

ばれないように今度それっぽい本を持ってきて適当に脚色しておこう。


「それより話聞きたいんだろ。酒はもういいからお前の部屋で話せばいいか?」

「はい」

「お前は先に部屋に行っといてくれ。一応他の奴に琴美の部屋にいるからまだ城にいるって伝えとく」

「わかりました。逃げないでくださいよ」

「逃げねぇよ。じゃあ後でな」


それから琴美と別れ、テミスさんが今日はまだ仕事中だったので、テミスさんにこのことを伝えに行った。


「テミスさん、俺は仕事終わったんですが、琴美に呼ばれたんで琴美の部屋に行ってきます。なのでもう少し城にいますね」

「ああわかった。わざわざ伝えてくれたんだな」

「一応伝えておいた方がいいでしょ」


正直伝えなくても言いとは思うが一応勇者に関係することだ。


「それで何をするんだ?」

「前にあった事件について色々知りたいそうで」


テミスさんにはバラバラ事件があったことは話してある。

傭兵ギルドには他言するなと言われていたが、こちらとしても勇者が少なからず関わってしまったので伝えなければならない。


「それだけならいいんだが、手は出すなよ」

「俺はそんな軽率な男じゃないですよ」

「どの口が言ってるんだ」


テミスさんはため息混じりで答える。

俺ってそんなに軽い男に思われているのか!


それを否定しようとしたが、テミスさんの手元にあった資料に目がいってしまった。


「テミスさんその資料って」

「ああ、ケドロス帝国の魔神襲撃についてだ。私たちも気をつけなければな」


それから少しテミスさんとこのことについて話したので少し琴美の部屋に行くのが遅れてしまった。




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