第7話

あれから数日、傭兵ギルドから犯人が捕まったとの連絡はない。

その間新しい殺人事件は起こっていないようだが、それが少し不気味だ。

俺の予測が正しければ、今日あたりに新たな事件が起こるはずだが、外れてくれる方がいい。


俺は仕事のためいつものように城へ向かう。


そういえばなぜ琴美は外出を許可されたんだ?

昨日から考えているんだが、まず許可されるはずがない。

琴美は勇者としてはまだひよっこもいいところ。外出して何かに巻き込まれた時に一人で対処できる実力はない。


オルト隊長から許可が下りたそうだが、あの人が何を考えているのかがわからん。


そんなことを考えているとすぐに城へ着いた。

今日は訓練はなく夜まで担当場所の警備だから結構暇な日だ。


どうせ誰かが侵入してくるとかない。


ということで俺は今日の担当場所である王女の部屋の前にやってきた。

扉をノックする。


「本日王女様の部屋の守護を担当します、ゼスです。よろしくお願いします」


部屋には入らず、その場で扉に向かって言う。

このやりとりは毎度警備を行う度にやることが決まっている。

誰が警備か王女様も知っている方がいいだろうとのこと。

まぁ警備の名前と顔を覚えているのかは知らんが。


「すいません少しいいですか?」


決まり文句を言うとなぜか王女様が扉から少し顔を覗かせて、俺に声をかけてきた。


「なんでしょうか?」


こんなことは初めてで、少し戸惑うが動揺を隠して受け答えする。


「あなたがゼスさんですよね?」

「???はいそうですが?」

「よかったら中に入って少しお話ししませんか?」

「警備がありますので」

「私の警備なら私に近い方がいいでしょう」

「まぁ・・・わかりました」


なぜ俺に話があるかはわからない。

断ることもできないので仕方なく王女様に従い部屋へ入る。




「それで話ってのは?」


王女様とは勇者召喚の際に俺が原因でああなってしまったのかもしれないので一方的ではあるが少し気まずい。

だから早く話を終わらせてほしい。


「勇者方の様子はどうですか?」

「日々成長してると思いますよ。ケドロス帝国の襲撃を受けたことを知って、少し尻込みはしていましたが、しっかりと訓練をこなしてますし」

「そうですか。私たちの勝手な都合で呼び出してしまったとはいえ、安心しました」


「それで話は終わりなら警備に戻りますね」


俺は席を立ち、部屋を出ようとするのだが、


「まだ話はあります」


その言葉で俺は腰を落とす。


「テミスさんから聞いたのですがゼスさんは魔力を扱えないんですよね」


テミスさんは城兵の中では女性ということもあって王女と関わりは多い。

だから雑談交じりに俺の話でもしたんだろう。


「そうですが、それが何か?」

「なぜ使えないんですか?」


なんで王女はこんなことを聞いてくるんだろうか?


「理由はわからないですね。ある日を境に急に魔力が使えなくなったので」

「それまでは使えていたのですか?」

「はい。使えてましたよ」


使えなくなるまでは魔力で遊ぶばかりしてたからな。


「そうですか」


「実は私の妹も魔力が使えないんです。彼女は生まれつきですが」

「そうなんですね。・・・あれ妹?」


王女様は一人兄弟だったはずだが。


「私とは腹違いの妹でして、民衆には存在自体が隠されています。知っているのは父とその側近くらいです。彼女は下町で母親と二人で生活しています」

「もしかして存在を隠されている理由ってのは」

「はい。魔力が使えないからです」


魔力が使えないことはこの世界にとっては致命的なことだ。

この世界は魔力が発達したことによって発展した。

その中で魔力が使えない人は欠陥品と呼ばれ蔑まれている。


だから王族から欠陥品が出たことを表沙汰にしたくないので隠居を迫られたんだろう。


「俺にその話をしたってことは妹さんの魔力が使えないことをなんとか出来ないかということですか?」

「おおよそあっています。少しでも何か掴めるものがあればと思い、お話しさせていただきました」

「とは言っても、俺も治っていないんで」




「一応俺が通っている整体院教えておきますよ。彼らなら力になれるかもしれません」

「ありがとうございます!」


王女は本当に嬉しそうに礼を言ってくる。

そんだけ妹のことを大事にしているんだろうな。


「そういえば、きちんとした自己紹介をしていませんでしたね。クレア・クノソスです」

「まぁ、知ってはいますからね」

「それもそうですね」


それから王女が昼食をとるまでの間、俺は王女と会話に付き合わされた。

話してみると、結構喋りやすかった。





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