第6話
模擬戦の翌日、今日は休みのため、街をぶらぶらすることにした。
休日に惰眠を貪るのもいいが、外に出るのも気分転換になって気持ちいい。
あいも変わらず、城下町は多くの人で賑わっている。
「きゃぁーーーー!!!」
甲高い女性の声が聞こえた。
何事かと思い、声が聞こえた方へ行くと女性が腰を抜かして、へたりこんでいる。
そのすぐ横に麻袋から赤黒い棒のようなものが飛び出ていた。
面倒ごとな予感がするが、一応街を守る兵士のはしくれ。
俺は女性に駆け寄り、背中をさすってあげ、落ち着かせる。
「大丈夫か?気持ちが落ち着いたら何があったか教えて欲しい」
女性は深呼吸を数回すると少し落ち着いたようで、ことについて話してくれた。
「ええっと、私は買い物するためにこの路地を通って近道をしようとしたんですけど、その袋に足を取られて転んだんです。それで倒れた袋を元に戻そうとしたら、袋から人の腕が見えて・・うっ!」
女性はそこで言葉がつまる。
「わかった。もう思い出さなくていい、ありがとう」
女性が落ち着いたようなので、俺は袋に近づく。
近づくと袋から悪臭が漂っている。中を見ると、血まみれでバラバラになった、手足が入っていた。
これは酷いな。
とりあえず、近くにある傭兵ギルドにでも連絡するか。
傭兵ギルドとはあまり関わりたくはないんだが、緊急時だ。割り切ろう。
周囲には悲鳴を聞いて多くの人が集まっていた。
すると見知った顔が見えた。
「ゼスさんどうしたんですか?」
琴美がかけよってきた。
「お前こそどうしたんだよ?勇者は原則外出できないだろ」
「オルト隊長に外出がしたいと伝えたら許可がおりました」
「それは本当か?」
「はい」
勇者を野放しにするなんてオルト隊長はは何をかんがえているんだろうか?
どっかで誰かが監視してるんだろうか?
こいつらにもしもの事があれば世界壊滅の危機なんだぞ。
「まぁ、いいや。とりあえず、お前はこの場を離れてくれ。ここにいたら、面倒に巻き込まれるぞ」
「何があったのかはよく知りませんが、それは嫌ですね。ではゼスさんまたお城で」
琴美がこの場を去ろうとしたのだが、
「すいません、道を開けてください!傭兵ギルドの者です」
運の悪いことに、もう傭兵ギルドの連中が来た。
人混みをかき分けて、二人組の男女が駆け寄ってくる。
「男性の腕が見つかったと聞いて来たのですが、そこの3人事情を聞いてもよろしいですか?」
メガネの女は俺たちを見て言った。
傭兵ギルドの奴らか。やっぱり面倒なことになった。
傭兵ギルドとは、傭兵を斡旋している組合のことで傭兵に依頼を出して、解決してもらうことで成り立っている。
どういう理由があるのかは知らないが昔から兵士と傭兵はあまり仲が良くない。
あの聖母のテミスさんですら苦手としているくらいだ。
「話すのはいいけど場所を変えて欲しい、彼女はまだ混乱してる。あとこいつは無関係だから連れて行かなくてもいいか?」
俺は琴美を指差す。
「そうはいきません、この場にいるだけでも重要参考人です」
まずいな。琴美が勇者だとばれると色々面倒だ。
だが、ここで理由をつけて琴美をこの場から離れさそうとすれば怪しまれるだろう。
考えていると、服の裾を引っ張られた。
琴美が俺の耳に顔を近づける。
「勇者だとばれるようなことはしません、なので連れてってください」
「おい、さっきと言ってることが違うじゃねぇか。この場を離れるって言ってただろうが」
「だって、腕が見つかったんですよね。事件じゃないですか。私も協力しますよ」
「そうは言ってもな」
琴美がいたところで、事件が解決するとは思えない。正直、大人しくしてくれた方が助かる。
「それに、この事件気になるところがあるので」
琴美は真剣な声音で俺に言い寄った。
「わかったよ。そのかわり大人しくしとけ」
「了解です」
俺は少しの好奇心で琴美がついていくことを了承した。
「では傭兵ギルドに向かいましょう。そこでお話を聴きます」
現場は他の傭兵ギルドの連中が抑えてくれるらしい。
うながされ、傭兵ギルドに向かった。ギルドは歩いて数分と近い場所にあった。
傭兵ギルドには一度立ち寄ったことがあったが、何年ぶりだろうか。
中に入るが昔の記憶とあまり違いはない。
ギルド内のテーブル席に案内される。
傭兵ギルドの二人は俺たちの正面に座った。
「ではあの腕が入った袋を見つけたのはどちらですか?」
「私です」
「あなたの名前は?」
「シーナ・ラベルです」
「私はマイナで、彼はニックスです。それで発見した経緯を教えていただけますか?」
シーナは俺に話したように彼らに当時のことを語った。
「買い物はどこに?」
「西通りにある、薬屋に行こうとしてました」
「わかりました」
女が話を聴き、男が紙に筆を走らせる。
「それであなたはなぜあそこにいたのですか?」
俺を見て言った。
「街をぶらついていたら悲鳴が聞こえたから駆け寄っただけだ」
「なるほど。そちらの彼女は?」
「ゼスさんをええっと彼を見かけたので現場に」
「なるほど、それであなたのお名前は?」
「ええっと・・・琴美です」
「ことみさんですか?あまり聞かないお名前ですね」
「そうですか?あはははは」
マイナに詰め寄られ、適当な愛想笑いを浮かべる琴美。先が思いやられるな。
「そんなことより、これってバラバラ殺人事件に関係してるのか?」
琴美を不審がられても困るので、話題を変える。
マイナとニックスの視線がぎょろりと俺を射抜く。
「なぜそう思うのですか?」
「あまり大きくもない袋に人間がまるまる1人は入れない。となると四肢を切断して袋にいれたってことだろ。これと似たような殺人事件が最近起こっただろ?」
マイナは黙ったままだ。
少し待っていると以外なことにニックスの口が開いた。てっきりメモをとるだけの置物だと思ってた。
「その事件のことは伏せられているはずなんだが?どこで知った?」
「知り合いが教えてくれたんだよ」
「その知り合いってのは?」
「整体院のエギール」
「あいつか。全く誰があの化け物に漏らしたんだ」
ニックスは吐き捨てるように悪態をつく。
「俺が聞いた話だと首から上がなくなっているそうだが、どうなんだ?」
「ああ、頭はなかったよ」
やはりエギールの言っていた事件と関連があるか。
「そのことについて他に知らせたりしたか?」
「いいや。俺も昨日聞いたばかりでな」
「他言無用で頼む」
「りょうかい」
それから俺たちについてもいろいろと聞かれた。
琴美についてまずそうな質問は俺が適当に嘘を交えながら答えた。
ーーーーーーーーーーーーーー
「今日のところはもう大丈夫です。遺体などから進展があればまた連絡します」
俺たちはそれだけで帰って良しとされた。
シーナは傭兵ギルドで休むそうなので俺と琴美で外に出た。
「それで琴美気になることってのは何かわかったか?」
「いえ、情報が掴めなかったのでわからなかったです」
「そうか。一応俺なりに気になったことはあるが聞くか?」
「はい、聞いてみたいです」
俺はここまでのことを整理して伝える。
「まず、疑問に思ったのが傭兵ギルドの連中が現場についたのが早すぎる。まだ、シーナが悲鳴をあげてから数分も経っていない。あの場所から悲鳴を聞いた誰かが傭兵ギルドに行き、事情を説明して彼らが現場に戻ってくるには走っても5分はかかる」
「でも魔法で風を起こせば早く移動できたりするのでは?」
「街中で人を動かせる風魔法なんて使ってみろ。人や店、いろいろ被害がでるぞ」
「確かに」
「それに袋から少し覗いた物が人の腕なんてすぐにわかるはずないだろ。あの腕は肌色でもなく血がついていたならなおさらだ。赤黒色の物体で腕なんて思わねぇよ。近づいた俺でようやくわかったくらいだからな」
まぁ、何かの能力で視力が優れているやつがいるかもしれないが。
それは一旦考えないことにする。
「つまり傭兵ギルドに腕が見つかったと伝えたやつが怪しいということだな」
「ゼスさんって意外と切れ者ですね」
「少し考えれば誰でもわかる」
こっちの世界でこの考えに至れるのは本当にごく一部だが。
「傭兵ギルドの連中もわかっていればいいんだが」
「教えてあげればいいじゃないですか?」
「俺はお前の教育係であって傭兵の教育係ではない」
冷たいようだが、これでいい。
あいつらが自分たちで事件を解決できないなら、この先やっていけるわけがない。
これくらいの事件は軽く解決してほしい。
「ならゼスさん犯人像って想像できますか。傭兵ギルドに伝えた人が怪しのはわかりましたがそれだけではどんな人物かわからないです」
「大量殺人を行う奴ってのは3パターンに別れるってのは知ってるか?」
「知らないです」
「殺人を食事として定期的行うパターン、単に愉快なこととして行うパターン、そして、意味のあることとして行う殺人、この3つだ。今回の事件だとわざわざ傭兵ギルドに事件を明らかにさせていることから食事として行なっているとは考えづらい。食事は邪魔されたくないものだしな。だから後者2つのどちらかだ」
「意味のある殺人って何ですか?」
「例をあげるとテロリズムとかだ」
「なるほど」
「これ以上は情報が少なすぎてわからん」
一応もう少し検討がついていることはあるが琴美にこれ以上興味を持たれても困る。
「とりあえずお前はもう城に帰れ」
「でも事件について気になります」
「なんかわかったら連絡してやるからこれ以上勇者が外うろつくな」
「わかりました。ちゃんと連絡してくださいね」
俺は琴美を見送って、事件現場を後にした。
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