第3話


いつもと同じ時間に城へと向かった。

午前の鍛錬の時間になると、城の広場に兵士たちと勇者が集まった。

オルト隊長が勇者たちの前に出た。


「僕はここにいる兵士たちを率いる隊長のオルト、まず君たちの適性をみる。それを考慮して君たちにあった訓練を行う」


勇者たちは真剣な眼差しで話を聞いていた。昨日、嫌がっている様子だった井出芽愛も含まれていた。


「では魔力適性。魔力については昨日の夕飯のときに話は聞いたよね。もう一度おさらいで話すけど、魔力はいろいろなものに変化させることができるけど、適性がある。大きく分けて3つ、魔力の性質を変化させるのに適した変化系、魔力から物質を生み出す具象系。そしてこの2つに該当しない特異系。それをわかるのがこの魔力適性装置ってこと。魔力適性によって訓練を分けるから。では光くんから順にこの水晶に手を触れて」


光が水晶に手をかざすと水晶の色が透明から緋色に変わった。

輝一は水晶の形が変化、芽愛は透明から白色に変わった。

最後に琴美が触れると水晶が光輝いた。

その現象に周囲にいた兵士たちがざわめく。


「光くんと芽愛くんは変化系で輝一くんが具象系だね。変化系は自分が得意な魔法が色に出るから、光くんは炎属性で芽愛くんは全魔法得意みたいだ。すごいことだよ、鍛えればこの世界でも有数な使い手になるよ」


芽愛はオルト隊長に褒められ照れている。


「そして琴美くんは特異系だ。驚いたよ、特異系は数百万人に1人しかいないから」

「琴美はすごいな」


光が琴美に近づいて賞賛する。


「ありがとうございます。でも数百万人に1人しかいないなら私に教えてくれる人はいるんですか?」

「この軍には特異系は2人いるからその2人から教えてもらってください。光くんは私が、芽愛くんはローラくん、輝一くんはガットさん、琴美くんはテミスくんとゼスくんにつくように。それでは各自よろしく、他の兵士はいつも通りの鍛錬に励むように」


俺とテミスさんは琴美の前に行く。


「私がテミスでこっちがゼス。よろしくね」

「はい、よろしくお願いします」



律儀に琴美はテミスさんに頭を下げる。

俺は気さくに手をあげる。


「よ、昨日ぶりだな」

「まさかゼスさんが教えてくれるなんて」

「予想はしてたが、お前が特異系だったからな」

「なんで私が特異系と?」

「それは特異系同士はシンパシーみたいなものがあるんだよ。多分昨日俺と目があったのもこれが理由の1つだ」

「へぇー」

「お前たち、知り合いのだな」

「昨日、部屋に無断で侵入してきました」

「ゼス、それは犯罪になりかねない」


テミスさんは呆れたように言った。

1つ咳払いを挟むと、テミスさんは特異系について話し始める。


「まず、特異系についてだが、特異系は変化系、具象系と違って枠にはまっていないから自由に魔力から力を使うことができる。変化系だと魔力の性質を変える、例えば魔力に炎の性質を持たせるなどだ。変化系、具象系は同じ系統の人に教えてもらえれば時間をかければ誰にでも身につく。しかし特異系は違う。どうすれば能力を得ることができるのかというと、まず自分の中に流れる魔力を感じ取ることだ。そして自分と向き合うことだ。特異系は大抵の場合自身の根深い所にあるものが魔法に現れるからな」

「なるほど」

「隣にいるゼスは例外だが」

「ゼスさんの何が例外なんですか?」


琴美は俺を指差してテミスさんに聞く。こいつ、人を指差すとか失礼なやつだな。


「俺はある日突然能力が備わっていたからな。俺の能力つまり、魔力を使った力のことだ。俺の能力は予知、予言だ」

「それってとんでもなくすごくないですか?」


確かにその通りだ。予知は相手の動きなどを先に知ることができればそれに対応するように動けばいい。戦闘において最強クラスの能力だ。


「ただ、欠陥能力なんだよな。任意のタイミングで使えない、突然視えることがあるだけ。戦闘では役にたつことはたまにあるがそれだけだ。あと予言だが俺は無意識で喋るから俺自身何を言っているかわからない。誰か周りにいないと意味ないんだよな」

「それを聞くと微妙ですね」

「それでもゼスの能力は使えるから私が兵士に推薦した」



そう、俺はテミスさん経由で兵士になった。そのことをよく思っていない兵士は結構いる。俺に兵士としての力があれば認めてくれたかもしれないがないものは仕方がない。今は力をつけた方だが、それでも兵士の中では弱い部類だ。



「ゆっくり時間をかけて能力を開発すればいい。私たちは近くで稽古をしておくからこの訓練時間が終わるまで魔力の流れを感じるようにしておきなさい」

「何か魔力を感じるためのアドバイスってありますか?」

「魔力の流れは人によって違う。私たちが下手に教えても習得できないのよ。だから頑張りなさい」




そう告げるとテミスさんは琴美から離れて行った。

俺はなぜか少ししてからテミスさんのあとへと続いた。




________________________


「琴美サイド」




ゼスさんとテミスさんが私のためにこの場を離れるのだが、ゼスさんはテミスさんに一言告げると私に近づいてきた。


さっきまで話していたゼスさんとは明らかに違う。

雰囲気か立ち居振る舞いか何かはわからないが私はゼスさんに圧迫感を感じた。

私が体を強張らせているとゼスさんが口を開いた。


「いくらでも迷えばよい、ただ期待を裏切るな。それが君が君自身になれる近道」



ゼスさんから飛び出した声とは思えない、無機質な声。

これがゼスさんの予言なんだろう。


少し気になるのが、最後の一文。私が私自身になれる近道。ここだけ、声音に優しさがあるように感じた。

それに最後の一文は予言というより・・・


これだけ言うとゼスさんはテミスさんを追ってこの場を去った。


期待を裏切るな。ゼスさんの能力がどれだけ信頼にあたるかはわからないけど忘れないようにしよう。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




なぜか一瞬だけ記憶がないのだが、たまにあることだから気にはしないことにする。

テミスさんが近寄って来た。



「なぁゼス。正直に聞かせてくれ。琴美は強くなると思うか?」

「長期間でみれば強くなる見込みはあります。ただ、即戦力にはならないですね。魔王が国を滅ぼす方がよっぽど早いでしょうね。他勇者の方が早く戦えるようになりますね」


テミスさんは琴美のことを結構気遣ってくれているようだ。

特異系ってのはすぐに能力が身につくわけではない。何年もかけてようやく芽が出る。突然身につけた俺が言えたことではないが。



俺は近くで訓練をしている他勇者たちに目を向ける。

正直争いとは無縁なところにいた彼らだから体の動かし方などに不安があると思ったんだが、見ると3人で差はあるが結構動けるみたいだ。



藍染はなにか武道をしていたのだろう。動きに洗練されたものが垣間見えた。魔法の方はまだ発動できてはいないが時間の問題だろう。

富良は武道などはやっていなかったようだが体力は勇者の中でもっともあるようだ。魔法は顔を見る限り苦戦している。

そして井出についてだが、



「天才ですね」

「私も同感だ。この短時間で教えられた魔法をすべて自分のものにするとは。それに彼女は全属性の魔法に適性がある、これは今後が楽しみな逸材だ」


魔法には属性がある。火、水、風、聖、闇の5属性。これらの魔法は鍛えればだれでも使えるようにはなるが適性があるかないかで効率が大きく変わる。

例えばある人のなかに備わっている全魔力を100としよう。この人は火属性に適性がある場合、火属性の魔法を10で発動させることができるが、適性のないひとは50も使わないと発動できない。


井出は全属性適性がある。教えられている魔法をすべて理解し、発動させている。天才としかいいようがない。それに身のこなしもあり、即戦力と言って差し支えない。

魔法による撃ち合いなら効率という面を加味すると彼女に勝てるものはいないのではないか。


「やはり勇者というのは凄まじいな」


テミスさんが感嘆の声を漏らした。


「魔王は勇者にしか倒せないそうだからな。私たちは全力でサポートしてやろう」


そうなのだ。魔王は勇者にしか倒せないらしい。

だから俺たちにできることは手下である魔人たちを倒すことしかできない。

実際に攻撃してみないと真偽はわからないが。


「テミスさんの能力なら魔王にも負けないと思いますよ」


これは本心から思っていることだ。テミスさんの能力は対人それも一騎打ちにおいては最強クラスの能力だ。

特に相手が初見なら間違いなくテミスさんが勝つ。


「私たちは私たちにできることをしよう。それが勇者のそして世界の助けになる」


テミスさんは遠くで佇んでいる琴美を見ながら、俺に言ったのだった。


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