第2話

日記1日目



 目が覚めて隣を見るとまだテミスさんが寝ていたのでほっぺをつんつん。

 これが柔らかい。最高なんだよな。


 テミスさんはほっぺつんつんでは起きなかったので体を揺さぶって起こした。


 俺は割と料理するが朝だけは面倒臭いので昨日の残り物や買っておいたパンなどで済ます。


 今日は昨日買っていたパンとジャム。

 テミスさんは俺より小柄なくせに俺の倍は食べる。

 俺がパン1個に対して3個食べた。


 その後身支度を済ませ、一緒に城へと向かった。

 城に着くと門番に声をかけられる。

 今日の兵士の朝練はないとのこと。

 召喚のためだろう。


 城内へ入るとオルト隊長が俺たちに声をかけてきた。

 俺には目を合わせず、テミスさんだけをみていたが。


「君たちは一緒に来たのか?」

「そこでゼスとたまたま一緒になっただけ」

「そうかい、それならいいんだ。それより今日は勇者が生まれるめでたい日だ。今晩一杯どうだい?」

「お酒はすこし控えることにした。それと勇者が召喚されることで忙しくなるからそんな時間はないはずだ」

「そんな正論で返さなくても、本当に君はいつになったら僕と二人で出かけてくれるのやら」


 オルト隊長は随分前からテミスさんを誘っているが。テミスさんにその気がないので毎度あしらわれている。

 オルト隊長の顔つきは少し威圧感があるがイケメンだ。

 城内のメイドから人気で何人も誑かしていると噂もある。


 オルト隊長はテミスさんと仲のいい俺をよく思っていない。

 俺も理由はよくわからないが嫌いだから別にどう思われていようが気にしてはいない。


「もう少しで召喚が行われるから君たちも王の間に急ぎなよ」


 そう言ってオルト隊長は去ったんだが、なぜか王の間に行く方向とは別の方へ歩いて行った。

 しょんべんでもしたくなったんだろう。俺も少し尿意を催してきたが我慢して目的地へ向かう。



 王の間につくと部屋の真ん中で王女様が静かに座っていた。名前はアテナ王女。

 彼女を遠くから囲うように兵士たちが立っていた。


「よし、集まったみたいだな。それではこれから召喚を行う。皆の者その場で目を閉じて集中するんだ。お前たちの魔力を我が娘、アテナに集めそれを糧に召喚する。お前たちの魔力の質と量で召喚される勇者は変わる。いいか、集中しろ」


 国王の言われた通りに目を閉じる。

 すこし時間がたつと俺から魔力が吸われているのを感じた。


 おかしいな。


「ぁああああ!!!」


 突如アテナ王女から悲鳴が聞こえた。

 声に驚いて目を開けてしまった。

 目の前は激しい光におおわれていた。

 それを思いっきり見てしまった。

 目がいてぇええええええ!


「おお!成功だ」


 周りから歓喜の声が響く。

 俺も勇者をはやく見たいが、目が痛くて開けられなかった。


「しかしこれは一体、勇者が4人とは」


 ようやく目の痛みがひいて目を開けると17,8歳の男女が4人呆然とした様子で立っていた。

 男2人に女2人全員容姿は整っている。

 俺は1人の女に目が惹かれた。

 長い綺麗な黒髪に長い睫毛。少しつり目の大きな瞳。

 女と目が合った。


 これだけ人数がいるのにも関わらず、俺だけと目が合った。

 なぜだ?俺の格好は一般兵士なら皆同じ甲冑を身につけている。

 目立つ格好の国王やドレスの王女に目が行くのはわかるがなぜ俺と目が合っているんだ。


 もしかしたら俺が自意識過剰なだけかと思い、試しに手を振って見ると顔を背けられた。

 なぜ顔を背ける。


「お前たち、聞け。私はギシヤ王国の王、ウノス・ギシヤだ。お前たちの名を聞いてもよいか」


 彼らは戸惑いながらも王の圧もあって素直に答えた。



 彼らの名前は茶髪の高身長なイケメンが藍染光あいぞめひかる、黒髪で少し幼い顔立ちの男が富良輝一ふらてるいち、オレンジ色に近い茶髪の女が井出芽愛いでめあ、そして俺が気になった女は平良琴美へらことみだそうだ。



「あの俺たち何が起こっているわかっていないんです」


 藍染光が彼らを代表して聞いた。


「お前たちを我らが異世界から召喚したのだ」

「それって異世界召喚か!」


 富良輝一が興奮したように叫ぶ。


「僕たちは勇者として召喚されたってことですか!」

「あ、ああ、その通りだ」


 このとき国王がテンションの違いか富良に対して若干顔を引きつらせていた。


「お前たちにはこれから魔王を討伐してもらうためにしっかり訓練を行ってもらう」

「待ってください、そんなこと突然言われても」

「ここがどこか知らないし、どうやってここに来たのかもわからないけど、はやく家に返して」


 井出芽愛が鬱陶しそうに国王に言った。


「今は無理だ」

「は?マジで言ってんの」

「お前たちを元の世界に戻すには魔力が足りていない。いますぐ戻して欲しいなら戻せんこともないが、おすすめはしない」

「すぐ戻れるならあたしは戻る」

「いいのか。魔力が足りずにどこかの時空の間に落とされるか、うまく元の世界に戻ったとして、座標が狂えば壁に挟まれたり、落下して死んでしまうぞ」


 その言葉に芽愛は顔を青ざめていた。


「そういうわけでお前たちに選択肢などない。我が国のため働け。もちろんタダ働きはさせん。お前らの要望は可能な限り聞いてやる。例えば女を用意しろと言われれば国でも有名な娼婦を用意する。もちろんイケメンも用意する。逃げたいからって逃げるなよ。どの国もお前らを欲しがっているからお前たちが逃げるんであれば殺す。そういうわけだ、兵士と侍女はそれぞれ勇者を部屋に案内しろ。予定とは人数が違うから適当に部屋を割り当てておけ。明日から兵士に混ざって勇者の訓練も行うように、勇者には担当教官をつけておけ、その方がコミュニケーションも円滑にいくだろう。では解散」



 国王は自室へと下がって行く。


 残された勇者は1人を除いて不安な様子が見て取れる。

 平良琴美はずっと考えこんでいるようだった。


 勇者たちはその後、兵士に部屋へと案内されて行った。


 残りの兵士たちのなかで動ける者は警備で魔力切れで動きが鈍い者は午後からの鍛錬まで休憩となった。

 俺は魔力がなくとも問題なく動ける体なので、警備に配置された。




 そして、今日の警備場所についたのだが、平良琴美の部屋の前だった。

 ちょうどいい、少しこの勇者と話をしたかった。


 コンコンと少しノックをして俺は部屋へと入った。


「ちょっと、いいか」


彼女はベッドに腰をかけて目をつぶっていたが、俺の気配に気づくと目を開け、俺を見つめた。


「あなたは、さっきの」

「やっぱり俺と目があってたよな。気づいて手を振ってやったのに」

「そんなことに気を取られているより状況の把握をしたかったんです」


この女は恐ろしいほどにあの状況で冷静だった。

大抵の人間は自分が拉致されれば、戸惑い、慄くはずだが、こいつは真っ先に状況整理をしていた。

だから彼女を気になっているのかと自分なりに分析してみるがそれだけではないと思う。


「それより何ですか?あの王様に何か言われて訪ねてきたとかですか」

「俺が個人的に会いたかっただけだ」

「はぁ、それで何の用事ですか。まさか、本当に私に会いに来ただけですか?」


琴美は体をさすり、俺から少し離れるそぶりをみせる。


「率直に聞きたいがなぜ俺を見ていた?あたりを見渡したところ偶然俺だけとしっかり目が合うとは思えないんだ」

「ええっとですね。偶然ではないです。しっかりあなたを見ていました。それはあなたも一緒じゃないですか。他の人には目もくれず私だけを見てましたよね」

「俺はお前の容姿に惹かれて見ていただけだ。それ以外は多分ない」

「そう正面から褒められるとむず痒い気持ちになります。あなたを見ていた理由は私自身よくわかってないです。強いて挙げるなら他の人と何かが違っていたんだと思います。私そういうことに敏感なんで」


俺が他と違うとしたら心当たりはある。

つまりこいつは俺と同じなのだろう。


「用事が済んだのならさっさと出て行ってくれますか?まだ整理しないといけないことがたくさんあるので」

「用事は済んだが暇だから居させてくれよ」

「あなた、兵士ですよね。兵士なら仕事があるんじゃないですか」

「お前の部屋の前で警備と言う仕事を今日まかされた。でも外で立ってるだけだと退屈なんだよ。だから付き合ってくれ」

「嫌です」


きっぱりと断られてしまった。


「ならこれでどうだ。お前はこの世界について情報整理しようとしてんだろ。でも情報が少ないから整理できてないだろ。あの国王、魔王を討伐しろとしか言ってなかったからな」

「うぐっ、まぁその通りですけど」

「だから俺がこの世界について教えてやる」


どうせこの後誰かさんに教えられるだろうけど、


「それなら、居てもらってもいいですけど。話終わったら、大人しく警備に戻ってください」

「わかった」


そして、俺はこの世界について話し始めた。


「この世界は大きく分けて3つの種族がいる。人間族、亜人族、そして魔人族だ。今俺たちがいるのはプシティス山の東側、こっちが人間族が支配していて、魔人族は西側を支配している。亜人族は南東にある森林で暮している。このうち人間族と魔人族はおおよそ半世紀ごとに争いが行われている」

「なんで半世紀ごと?」

「それは半世紀で魔王が誕生するからだ。魔人族は人間族と比べると少し劣るんだ。知性、武力などが。もちろん例外もいる。それでだ、そんなやつらがわざわざ人間に争いをしかけても勝てるわけがないだろ。だが魔王が誕生すると話が変わってくる。魔王は魔人族に力と知恵を貸す。それをもって人間族に攻めてくるわけだ」

「それなら、魔王がいない間に魔人族に総攻撃しかければいいのでは?」

「その通りなんだが、さっき西側を魔人族が支配しているって言ったよな」

「はい」

「その西側は人間にとってすべてが毒なんだよ。水、食料、空気が人の適応外なんだ。一応生きれることはできるみたいだが熱を出し、腹を下し、めまいがする。そんな場所で戦争しても人間が勝てるわけないだろ。だから攻めることができない。ちなみに魔人は東側でも何も問題なく動ける」

「なるほど」


琴美は近くにあったメモに綺麗な日本語・・・で情報を綴っていく。

しっかりしているやつだ。


「人間は環境のため攻めれない、魔人は力がないので攻めれない。これが50年続くってわけだが、魔王の誕生によってその均衡が崩れるわけだ。そして、魔王は魔人族を支援するだけでなく、その力も凄まじいそうだ。俺も伝承とかでしか知らないが魔王が暴れれば人族は9割以上殺されるそうだ。それを防ぐためにお前らを召喚したってわけだ」

「私たちの力なんて何も役に立たないですよ。武力での争いとは無縁の所にいたので」

「まぁ、この世界に来たことですごい力が備わってるはずだ。勇者は皆すごい力を持っているって言われてるしな。それも明日の訓練でわかるだろ」

「まったく実感わかないですけど。あなたも訓練に参加するの?」

「参加するぞ」

「そうですか。そういえばあなたの名前を聞いてませんでした?私は平良琴美です」

「俺はゼスだ。あんまり関わることはないはずだがよろしくな」





「今聞いた情報を踏まえて考えたいので出て行ってください」

「もうちょっと暇つぶしに付き合ってくれよ」

「嫌です」



琴美は俺の背中を押して部屋の外に出した。

俺は大人しく押し出された。



それからは飯の時間まで部屋の前で大人しく警備した。

夕飯の時間からは勤務時間外になったので、警備を交代して俺は家に帰った。

夕飯のときにおそらく、俺が琴美にした話と同様のことを勇者全員聞かされているはずだ。



家に帰っていつも通り飯を作り、風呂に入った。

明日は勇者の初訓練だ。どのくらいの力があるか興味がある。



明日が楽しみだ。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る