Episode 17
「は? 何が言いたいんだよ」
突然妙なことを言い出したと、小馬鹿にしたような表情で直也が返した。
自分たちは《ルミナス》を取り戻す任務を与えられたわけじゃない、なんてそんな馬鹿なことがあるはずがない。
対して、クライブは柔らかな口調で諭すように応じる。
「君はおかしいと思わなかったのか。《ルミナス》はあれほど厳重に保管された最も重要な宝だ。それが盗まれたというのに、首領が選んだのは君たちだ。まだ経験の浅い未熟な君たちにそんな大事なことを任せるのはあまりにも荷が重すぎるし、何より不自然だと私は思うのだけどね」
「でもそれは、人手が足りなかったからで」
「確かにもっともらしい理由だ。それにね――」
手薄なときを狙ったのはクライブ自身だ。状況は知っている。けれど、不自然なことはもうひとつあるのだと彼はさらに続けた。
「私が宝物庫に挑んだのは一度や二度じゃない。その都度セキュリティを打ち破りもしたし、打ち負かされもした。《ルミナス》の一歩手前まで行ったこともある。だから宝玉に近づこうとする侵入者がいることに、少なくとも首領は気づいていたはずなんだよ」
宝物庫の地下はまさに迷宮のようだと彼は言った。
そこには《ルミナス》以外にも数々の貴重な品が保管されている。それらすべてを管理しているのは首領自身だという。そして、それを保護するためのセキュリティを施したのも彼自身なのである。当然侵入者を把握していないはずがない。
それでも対策をしなかったのは、絶対に破られないという自信があったのか。
あるいは――
「盗まれることを承知で、首領はそれを見逃していたと?」
「ああ、そういうことだ」
「何のために?」
「君たちに罪を着せるために、だよ」
「な……」
予想外の答えに、息を詰めた。
そんなはずはない。直也がすぐにそう反論しかけたが、それよりも早くクライブが畳みかけるように突きつける。
「首領は最初から君たちに期待なんかしていないんだよ。ここにいるメンバーを見てごらん。ひとりを除き成績こそ優秀だが、力を誇示し孤高を貫く、協調性に欠いたはみ出し者ばかりじゃないか」
その指摘はもっともだった。
確かに彼の言う通り、ここにいるのは落ちこぼれの芳文を含め、どこか問題を抱え集団から孤立している面々で。急遽集められたメンバーとはいえ、宝玉を取り戻せるか否かがかかったこの重要な任務を果たすには、チームワークという点でどうにも心許ないものがあった。
「つまり、首領が君たちを選んだのは厄介払いということだ。上層部からすれば、君たちのような問題児は邪魔な存在なんだよ。組織には必要ないから、どうにかして排除したいと思っていた。そんなとき、ちょうど《ルミナス》が盗まれるという事件が起きたとすればどうだろう」
侵入者にあえて《ルミナス》を盗ませ、それに加担したとして芳文たち五人を処分する。それがこの任務の真実なのだと、クライブは語る。
「今頃〈
最後にそう言い添えて、クライブは話を終えた。
ここまで来るともう反論する者はひとりもいなかった。あながち嘘とも言い切れないと思ってしまったのだ。掻き立てられた不安が、彼らの心に首領や〈焔凪〉への不信感を募らせていく。
(……うん?)
そんな中、芳文はひとり首を傾げた。
今の話をどこかで聞いたことがあるような、そんな気がしたのだ。その場で俯き、記憶を辿っていく。
(ああ、そういえば……)
すぐに答えは出た。
色々あって忘れていたが、そもそも自分がここにいる理由は疑いを晴らすためだったということを芳文は思い出した。
その内容は確か、落ちこぼれと蔑まれてきた芳文が賊を手引きし、宝玉を盗み出すことに加担したのではないかというものだった。まさに今、クライブが自分たちに話したことと同じものだ。
でもそれは、他でもない首領から聞かされた話である。もしクライブの言うとおりだったのなら、疑いある本人にわざわざそれを話して聞かせるだろうか。
「後ろを見てごらん」
不意に、そんな声が芳文の思考を遮った。
「――――っ!」
はっと顔を上げる。後ろの方から近づいてくる大きな気配に遅れて気がついた。
気力に溢れた三つの気配。それが術師のものだとわかったとき、クライブがそちらを指差して声を上げた。
「あれは君たちの追手だ。君たちを捕えに来たんだ」
***
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