第19話 Marry me(19)
「夏希は・・頑張っていろいろやってくれています。 高宮の嫁にもなろうって努力もしてくれてますし。 ぼくは彼女にそんなに多くのことを求めたりしたくないんだけど、」
高宮もお茶を飲みながらぽつりと言った。
「もう・・いい年の大人だしね。 あの子にも大人になってもらわなくちゃ、」
夏希の母は両手で湯のみを包み込むように触った。
「ちょっとづつですけど。 ちゃんと成長してますよ。 夏希は、」
「・・夏希が。 高宮さんと出会えてよかったって。 夕べからそればっかり考えてた、」
いつもいつも明るくて冗談ばかりのこの母が
珍しく神妙な顔で言った。
「お母さん、」
「仏壇の前でお父さんとずうっと話してて。 ほんっと・・よかったねえって。」
その光景を思い浮かべてしまった。
『ぼくには夏希しかいらないんです』
初めていわきにやって来た高宮は自分にそう言った。
そのときから
ああ
この人は夏希のことを真剣に考えてくれているって
その時ホッとした。
「ありがとう。」
母は小さな声で高宮にそう礼を言った。
「あれっ?? ここにお財布とか定期とか入れておいたのに!!」
「だから! ゆうべのうちにちゃんと揃えておけって言ったでしょ!」
翌朝も同じような光景が繰り返され
高宮は髪を整えながら、鏡越しに見えるその状況に笑ってしまった。
何とか
教会に到着した。
時間ギリギリだったので、もうわけがわからないうちにメイクをされてウエディングドレスを着させられた。
自分の姿を大きな鏡で見ていると
「やっと仕度できた?」
着物に着替えた母が入ってきた。
「ヘンじゃないかなあ・・」
真っ白なウエディングドレスに身を包んだ娘に
「・・すごく。 似合ってるよ。」
母は鏡越しに彼女の横に立ってそっと背中に手をやった。
「・・そお?」
ちょっと恥ずかしくなってうつむいた。
「・・うん。 なんか。 夏希じゃないみたい。 ほんと・・キレイ、」
そう言ったとたん
母の目からは涙がどんどん溢れてきた。
「・・お母さん、」
もう夏希もぎゅうっと感情の中枢をつかまれてしまったようで、母の涙に動揺した。
「お父さんに・・見せたかった。」
とどめの一言に
夏希の涙腺もあっという間に決壊してしまった。
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