第12話 Marry me(12)
「不器用な子で。 おれの妻という仕事が増えただけでも・・あの子にとっては大変なことなんだ。 失敗ばっかりだけど一生懸命で。 おれは彼女に今の仕事を続けて欲しいんだ。 高宮の家のことで高宮の嫁としての仕事まで負わせるようなことになったら彼女は参ってしまう、」
高宮は母にきっぱりと言った。
「こちらにも。 ぼくが伺うべきでした。 どうも・・すみませんでした。」
もう一度老人に頭を下げた。
「・・うまいわらび餅じゃった、」
彼は少しだけ微笑んでそう言った。
「え、」
「たいへんなおっちょこちょいのようだが。 きちんと相手のことを思いやって持って来てくれたんだろう。 まさかきな粉にむせるだなんて考えもせずに、」
「おじさま・・」
母は少し驚いていた。
「元気な声で。 自分は子供と年寄りにはけっこう人気があるんだ、とか言って。 呆れるくらい。」
老人は夏希のことを思い出して笑ってしまった。
「・・なんのウラもない。 オモテしかないそんな子なんだろうって。 そう思った、」
老人の言葉が本当に嬉しく
「はい、」
思わず微笑んで頷いてしまった。
「これからも・・高宮の嫁として彼女はやっていくわけだけど。 だけどそういうことはまずおれに言ってくれないか。 夏希には直接言わないで欲しい。」
高宮は母に言った。
「・・でも、」
「あの子はいっぺんにたくさんのことをやろうとすると。 できないことを自分のせいだって思ってしまうから。 いっぺんにはできなくても・・少しずつならできるから。 彼女も頑張ってやってくれようとしてるし。 あんまり無茶を言わないでやってほしい、」
母は少し不満そうでもあったが
「・・まったく。 若い子をもらったりするから、」
いきどころのないグチをそんな言葉にしてしまった。
「・・しかしなあ。 漢字くらいは日本人としてきちんと読めるようにしておくように言ったほうがいいぞ、」
老人は高宮に笑いながら言った。
「は・・??」
「『ひがしくも』さん、と言われたぞ。」
へ・・・。
高宮はサッと血の気が引いた。
「『東雲』くらいは読めるように、きちんと新聞を読んだり読書をするように言っておきなさい。」
そして
体中から血が逆流して恥ずかしさで赤面してしまった。
「読めなかったの・・?」
母も呆れて高宮を見た。
・・ありえる!!
ありえすぎる!!
ちゃんと読み方も確認しておくんだった!!!
高宮はふるふると震えた。
そんな彼を見て
「本当に。 呆れた嫁じゃ、」
珍しく大きな声で笑った。
なんだか少しだけ嬉しくなった。
「早く良くなって。 ぼくたちの結婚式にぜひおいでください。」
高宮はニッコリ笑ってそう言った。
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