第11話 Marry me(11)

「あ・・隆ちゃん・・じゃなくて。 えっと、高宮さん。」



夏希は社長室に入ろうとした高宮を見つけて声をかけた。



『高宮さん』なんて彼女から呼ばれるのもずいぶん久しぶりだったが



「・・周りに誰もいないときは。 いつもの呼び方でいいよ、」



高宮は少し照れて彼女に言った。



この前、パニくる彼女にそんなことまでつい言ってしまったことも反省していた。



「えー・・でも、」



「今日は早く帰れそうだから。 一緒に食事しよう、」



高宮は夏希に償いたい気持ちでいっぱいだった。



「あ、あのね。 今日・・隆ちゃんのお母さんのところに・・ちょっと行こうかと思って、」



「は? うちに?」



「うん。 あのね、その入院してるおじいさんのことなんだけど、」



夏希がワケを話そうとしたので



「さっき。 斯波さんから聞いた。」



そっと話を遮った。



「え、」



「ごめんな。 ほんと。 夏希ばっかり。 大変なことに巻き込んじゃったし、」



「・・ううん。 さっきね。 行って謝ってきたの。 でも、隆ちゃんのお母さんも怒らせちゃったし。 おわびに行かないと、」



夏希は少しうな垂れた。



高宮はひとつため息をついて




「・・おれが。 行くから。 夏希は何も言わなくていい。」



きっぱりと言った。



「え、でも!」



「いや。 おれが一人で行くから。 夏希は気にするな。」



優しい笑顔で言った。



「そんなの! あたしが悪かったし! あたしが直接、」



「いや。 いいんだ。 もっとこういうことはきちんとしておかないとなんなかったんだ。」



「きちんともなにも・・。 あたしは隆ちゃんの奥さんなんだから。 当たり前のことだし、」



「そうなのかもしれないけど。 おれは夏希が夏希らしくいられなくなってしまったら。 自分と一緒になった意味がないって思うから。 高宮の家のことは、おれの責任だ。 夏希もいろいろ煩雑で仕事たまってるんだろ? とにかくそれを終わらせて。 あとはおれに任せて。」



彼女の肩をぽんと叩いて、高宮は笑顔でその場を去ってしまった。





高宮も忙しかったが、この日は仕事を切り上げてとりあえず東雲老人の元へと向かった。



すると偶然に高宮の母も来ていた。




「隆之介、」



「ごぶさたしております。 隆之介です、」



高宮は老人に頭を下げた。



「ああ・・、」



もう酸素マスクも取れて起き上がっていた。



「もう、ほんっと夏希さんが余計なことをしてくれたおかげで。 どうなることかと思ったわ、」



母にさっそく愚痴られた。



「本当に。 申し訳ありませんでした。 何もかも彼女に押し付けてしまった自分の責任です。」



母のことは無視して老人に詫びた。



「あなたは仕事があるでしょう。 責任のある仕事をして大変なんだから、」



母は憤慨したように言った。



高宮は母を見て



「夏希も責任のある仕事をしているんだよ、」



きっぱりとそう言った。


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