第8話 Marry me(8)
その落ち込んだ夏希に追い討ちをかける事件が。
「え? お義母さんですか? えっと・・今ちょっと打ち合わせに入るところなんですが、」
会社の電話に直接高宮の母から電話があった。
夏希は受話器を首に挟みながら慌てて、あとにしてもらおうと思っていると
「あなた、昨日おじさまに何を持っていったの!?」
すごい剣幕で怒られた。
「は・・」
「おじさま、今朝激しく咳き込まれて、今呼吸を安定させるために点滴と酸素吸入してるそうなんだけど! きけば、あなたが昨日持って行った『わらび餅』を食べたそうなのよ! そのきな粉にむせ返ってしまったって!」
へ・・
夏希は事の重大さに思わず受話器を落としそうになってしまった。
「もう! 風邪で入院している人に『わらび餅』を持っていくってどういうことなのよ!!」
義母の声ももう聞こえなくなってしまった。
「斯波さん! すみません! あたし・・これから行かなくちゃならないところがあって!」
打ち合わせに入ることになっていたのだが、夏希は必死に斯波に言った。
「は? って、今日はレックスの人達も来て最終の詰めだって、」
斯波は眉間に皺を寄せた。
「そうなんですけど!! あ、あたしのせいで・・大変なことになっちゃって!!」
もう半泣きだった。
「どうしたんだよ、いったい・・」
斯波は彼女の普通でない様子に、落ち着かせるように座らせた。
「あ・・あたしが。 余計なものを持っていったばっかりに。 そのおじいちゃんが・・」
夏希はわけを斯波に話をして、ベソをかいた。
「そっか・・。」
「早く・・お詫びに行きたくて・・」
「なんでわらび餅なんか持ってったの?」
斯波はそのギモンをぶつけてみた。
「・・死んだ・・おじいちゃんが。 寝たきりになって思うようにモノが食べられなくなった時に。 あたしが買ってきたわらび餅をおいしいってすっごく喜んで食べてくれたのを思い出して。 やわらかくて美味しいし・・栄養もあるかなって。」
夏希はぐすんと鼻をすすった。
斯波はため息をついて
「わかったよ。 とりあえず病院に行って来い。 レックスの斉藤さんにはおれから話しておく。」
そう言ってくれた。
夏希は急いで東雲老人の病室にやって来た。
「・・だ・・だいじょうぶですか・・?」
酸素マスクをして寝ている彼に声を掛ける。
「おまえさんかい・・」
かすれた声で少しだけ目を開けて言った。
「す、すみませんでした!!!」
夏希は必死に頭を下げた。
「あたしがわらび餅なんか・・持ってきたから。 ほんと・・苦しい思いをさせてしまって・・」
涙がこぼれてしまった。
「ほんと・・あたし・・おっちょこちょいで。 バカだし! 高宮のおうちにもこうやって・・・迷惑ばっかり。」
もうどう詫びていいのかもわからなくなってしまった。
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