第6話 Marry me(6)

見舞いの品を渡したら



もう会話もなくなってしまった。



そそくさと帰るわけにもいかず、夏希は何とかしようとして。



「おかげんは・・いかがですか?」



普通に聞いてみた。



老人は本から目を離さず



「少し微熱が続いていたから念のため入院しただけだ。」



ブスっとして答えられた。



「あ・・そーなんですか・・」



念のためで入院なのにこんなに豪華な病室なんだあ・・



お金持ちなんだなあ。



夏希は素直にそう思ってしまった。



そしてまた沈黙。



それに耐え切れず



「あの・・隆之介さんって・・小さい頃はどんなお子さんだったんですか?」



と、いちおう笑顔で聞いてみた。




すると




「わしは隆之介には中学に入学した時と、成人式の挨拶をしに来た時に会っただけだ!」



と今度は睨まれた。



はあ???



なに?



二回しか会ってないの??




夏希は呆然としてしまった。



もっとガッツリな感じの親戚かと思ったのに・・



この常識についていかれそうもなかった。




「しかし・・」



老人はようやく本を閉じて、夏希を上から下までじいっと見たあとに



「おっちょこちょいそうな・・嫁じゃのう。」



いきなり言われた。




「はあ??」



「まだ若いようだし。 こんなんで高宮の嫁がつとまるんかい、」



吐き捨てるように言われて、



「・・じ・・自信はあんまないですけど。 頑張ります、」



夏希は精一杯の返事をした。



「高宮は代々地元の名士で。  隆之介の母親の郷は華族の流れを汲む家柄だし。 一族、みなそれなりの地位におるし。 おまえさんみたいなとんちんかんで務まるのかい、」



さらに言われて、どんどん落ち込む。



「・・けっこうとんちんかんではありますけど。  これでも一人暮らしもしてたしこの世の中を生きていく自信は・・あります、です。」



もう何を言っているのかもわからなくなっていた。




「あと! 元気だけはあります! 身体も頑丈ですし!」



と、胸を叩いた。



老人はもう



呆れてしまって口をぽかんと開けた。



「ひっ・・『ひがしくも』さんには初めてお会いしましたが、あたし結構子供とお年寄りには人気があるんです! これでも!!」



その発言に


老人はわなわなと震えだした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る