第19話
もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ
流石に・・・もう無理ー!
わたしは耐えきれずに彼の手を払い除ける。
「曲者っ!!」
しまった!! 寝たフリがバレる。
「咲姫!? ・・・・・目覚めたのか!」
ヤバい、ヤバい! どうしよ。
・・・・・
「・・・すー・・・すー・・・・・」
慌てて寝息を立ててみたけど、わざと過ぎちゃったかな。
「・・・・・・」
「やっぱり咲姫は、咲姫だよな」
ふぅー、何とか大丈夫ぽい。
・・・・・・
キャッ!
今度はわたしの手をいやらしく触り始めた。
不意を突かれて、思わず手を振り解いてしまう。
今度こそバレたと肝を冷やしたが、そんなことなく、彼が吹っ飛んだ布団をわたしにかけてくれたおかげで、わたしの肝は温かい。
良かったー、バレなかった。
ただ、もう挫けそう。
もうネタバラシしちゃうかな。
これ以上粘ると、次に何されるのか分からない。
心臓に悪い。
あれ? そういえば、布団を掛けてから黙ったままだけど、彼は何をしてるんだろう?
わたしは気になって、薄目にしてみると──
彼の顔が近くに見えた。
え!? え!? 何? 何? 何してるの?
そう静かにパニック状態になっているうちにも彼の顔が近づいて来る。
このままでは唇が当たってしまう。
唇と唇が合わさってしまう。
そして最後に唇で唇を押し返えしてしまう。
つまりは・・・キスをしてしまう。
接吻をしてしまう。
口付けをしてしまう。
口吸いをしてしまう。
ちゅうをしてしまう。
どうしよう!? どうしよう!? 逃げなければ・・・・
逃げないとわたしは彼とキスをしてしまう。
・・・・・・・・・
ん!? 何故わたしはキスから逃げようとしてるんだろう
わたしは彼とキスをするのは嫌なのかな?
・・・・・
別にキスをしたいのではないけど、ただ・・・
彼以外の男とはしたくないとは思っているのかも
だったら、ここでキスするのは悪くないのかもしれない。
寧ろ、好機到来ともいえる。
起きるタイミングを見失ったわたしにとって、キス後がわたしが冬眠から目覚める絶好のタイミングだ。
キスをして目覚めるなんて、おとぎ話の王子様とお姫様みたいで何だか気持ちがいい。
それに二人が運命の相手みたいで良い。
ひょとしたら、彼はわたしが目覚めた喜びのあまり、告白なんてしてくれるかもと淡い期待もしてしまう。
こうしてわたしは薄目を止めて、完全に目を閉じて彼を待つ。
瞼の裏の視界。
視界が塞がっていることで聴力が冴え、わたしの心臓の音がよく聞こえる。
打ち上げ花火のように楽しそうに鼓動する。
それにパンダの耳はわたしの心音を捕まえるのが上手みたい。
心臓の音しかまるで聞こえない。
うるさすぎ。
しかも待てば待つほど、期待の籠った緊張で心臓の音は大きくなるばかりで、とどまることを知らない。
わたしはどのぐらい目を閉じて彼を待っていたのだろう。
ちっとも分からない。
響く心音を聞いていると、何だかとても楽しくて、ワクワクした気分になって、時間が短く感じる。
だけど、せっかちな待ちきれない気持ちも現れ始めたようで
・・・・・
さっきまで、楽しく鳴っていた心臓の音は急遽不協和音に変わる。
打ち上げ花火からミサイル弾へと音が変わる。
思わず、脚が勝手に動いた。
彼と知らない女を引き離そうと彼に勢いそのまま飛び蹴りをした。
蹴りを食らった彼は遠くに飛んで、二人の距離は離れる。
だけど、まだ心臓から響く不協和音が収まることはない。
その
確かにミミちゃんが演技だったのは事実だとしても、彼はそうではないことぐらい分かる。
だって、わたしが冬眠したふりをしている事を分からなかった彼が演技なんて出来るわけがないのだから。
でも、わたしがここで彼に咎める権利はない。
なんせ、わたしと彼との関係は恋人ではなくて、ただの幼馴染なのだから。
そう、ただの幼馴染。
わたしは彼の彼女を自称するただの幼馴染。
自称しているだけで、恋人ではない・・・
彼女(自称)の幼馴染。
ギリッ・・・・・・・・・・・・
奥歯を噛み締めて耐えなければならない。
最初は彼の顔を見ないことで何とか耐えられた。
ミミちゃんとも反射的だけど会話出来たと思う。
ただ、彼とミミちゃんの話の内容は断片的だけしか頭に入らなかったけれど、わたしが寝たふりをしていたことはミミちゃんに推理されたことは理解できた。
推理を聞いた彼が安心したように床にへたり込んでいるのを見て、不思議と思った。
何故にわたしを𠮟らないのかと・・・・
思わず顔を見て彼に疑問をぶつけた。
そしたら顔を合わせて謝られた・・・・
『今更だけど、あの時と今まで、ごめんな。咲姫』と謝られた。
けどそれは、一番言って欲しくない言葉
わたしは謝らないで欲しかった。
謝られることが一番わたしを苦しめる。
謝る彼を見て、わたしは苦しくて苦しくて耐えられなかった。
逃げ出すほど、苦しい。
だから、その場にいることが出来ずに飛び出して、今、彼と一緒に花火を観るはずだった『約束のいつもの場所』に逃げて来た。
最初は彼が約束通りに花火を一緒に観てくれなくて怒っていたはずなのに何で謝られるのが苦しかったのだろう。
・・・・・・
たぶん
たぶん、わたしは・・・・
わたしは謝って欲しいのではなくて、怒って欲しいだけなんだ。
●○●○●○●○●○●○●○●○
この場所から見える夜空は花火と同じように月が綺麗に写る。
昔の偉い文豪が『I love you』を『月が綺麗ですね』と翻訳したそうだけど、わたしだったら、『今年の花火も綺麗だね』と訳すだろう。
なんせ、一人で見る月よりも二人で見た花火の方が断然綺麗なのだから。
でも花火は月と違って消えてゆく。
わたしと彼との関係のように消えてしまう。
その原因はわたしが寝たフリなんてしたから。
わたしは彼に大事に思われていると実感したくて、叱られたくて、寝たフリなんて馬鹿なことをしたせいだ。
そんなことしなければ、ただの幼馴染として関係が続いたはず。
彼が一緒に花火を観る約束をドタキャンされ、何だか彼がわたしのことを大事だ思っているのかが不安になって確かめようとしていた。
けど確かめた結果、わたしが寝たきりになっても、彼はお見舞いに来なかったし、やっと、来たと思ったら別の女の子にキスをしようとしていた。
わたしって彼の心の中にはちっぽけな存在だったんだ。
そう、大事でもなかった。
彼がわたしに謝罪することで、更にそんな考えがドッと押し寄せる。
耐えきれない。
そんなことになるなら、寝たふりなんてしなければよかった。
ただの幼馴染で満足すれば良かった。
勘違いしたわたしの恥かしさと迷惑をかけた罪悪感でわたしは彼と向かい合うことは出来ない。
わたしは、これからの生活では彼を避けて生きていくのだろう。
そして、彼はわたしの事を追いかけたりなんてしないだろう。
わたしを捕まえてはくれない・・・・
何だか彼の事を考えると視界がボヤける。
上を向くと月が歪に見える、揺れる水面に反射して見えているように。
何でだろう。
頬につたる水滴で、わたしはようやく気がついた。
わたしは泣いているのだと。
涙を指で取る。
「見つけた」
懐かしいけど、聞き慣れた声
一番たくさん聞いた声がパンダの耳を通る。
急いで涙を拭き取ると、視界が多少生活鮮明になった。
そのマシになった視界の先には彼がいた。
彼はわたしを追いかけて見つけてくれた。
わたしの幼馴染、甲斐主理。
わたしの大好きなしゅりが追いかけてくれた!
しゅりがわたしを見つけてくれた!!
「しゅり!!!」
わたしは思わず彼の名前を、いつも呼んでいた名前を叫んでしまう。
彼女(自称)の幼馴染が冬眠しました。大事な事なのでもう一度言わせてもらいますが、彼女(自称)の幼馴染が冬眠しました 一滴一攪 @itteki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。彼女(自称)の幼馴染が冬眠しました。大事な事なのでもう一度言わせてもらいますが、彼女(自称)の幼馴染が冬眠しましたの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます