第16話


突然ですが語り手は甲斐主理に代わり、わたくし、再々木咲姫となります。


これから話す内容は彼は知らないし、これからも知ることもないのです。


つまり、わたしがこれから語る内容は、わたしが何故に2ヶ月近く寝たふりをしたのか、何故に彼から逃げたのかについてなのです。


では語ります。


わたしには友達が沢山いる。皆んな大好きだし、大切に思っている。


だけど幼馴染は一人しかいない。

幼馴染は甲斐主理しかいないのだ。


大事な幼馴染がいるのに狂うように友達を作っているのだと、わたしだけが自覚している。


いわゆるゴミ屋敷に住んでる人や多頭飼育崩壊している人と同じなのかも知れない。


一種の恐怖症とも言える。

高所恐怖症、閉所恐怖症しかり、ぼっち恐怖症。


まわりに仲のいい人がいないと不安で仕方がなくなる。


けれど、まだ恐怖症のキッカケを分かっているだけでもまだ、マシだとも思う。


そのキッカケを説明すると、ちょっと昔のことになっちゃうのだけど、別にいいよね。


では始めさせてもらうと・・・・

幼い頃、わたしは人見知りが激しくて友達がいなかった。

今のわたしだけを知っている人なら、信じられないかもね。

だけど、ホントなんだよ。アハハハ


まぁ、でもその時のわたしはそれで良かった。


だって、仲良し幼馴染がいたから。

その人だけで十分。


ずっと彼が隣にいた。遊ぶ時も、勉強する時も、御飯を食べる時も、何もせずにただボーと雲を見ている時もずっと彼のそばにいたし、いたかった。


彼はよく一人になろうとしていたけど、わたしは耐えられずにずっと追いかけていた。


そのおかげで、家族よりも一緒にいる時間が長いのかもとすら思う。


でも、嫌いな人ほどよく道端で偶然遭っちゃうのと逆で、好きな人と一緒にいることには邪魔が入る。


例えば、そう、性別の違いなんて典型的だ。


トイレや体操服に着替える時は男女別だしね。


まぁ、でも、それぐらいの障害は幼いわたしならウォールマリア並みに簡単に壊せた。


具体的にどう壊したかはわたしの黒歴史のため言いたくないし、言わないけど、幼いわたしは、それほどまで彼の側に居続けたかった。


でも、いくら超大型巨人でも壊せない壁があった訳で・・・・・


あれは小学3年生の時、彼が交通事故に巻き込まれた。


犬の散歩の途中で、車同士の衝突事故に居合せ、


そして、彼は意識不明の寝たきりで入院した。


そこで、初めて彼のいない生活を過ごすうちに新たな友達をつくるようになった・・・


のではなく、


わたしは学校を休んで彼の入院している病室に居続けたので、その時に友達は作らなかった。


て言うか、そんな余裕なんてなくて、


彼がこのまま起きないのかと不安で仕方なかった。


このまま彼は死んでしまうのか。

彼と目を見てお話をすることがもう出来ないのか。

一緒に遊ぶことは出来ないのか。

隣で御飯を食べれないのか。


わたしは独りぼっちになっちゃうのか。


彼のまぶたが閉じてる間、わたしはそんな事ばかり考えていた。



数日後、彼が無事に目を覚めたときは、そんな不安は消えたように感じた。


わたしは安心と喜びでずっと泣いていたと思う。

いや、違う。安心や喜びよりも怒りが強かった。

わたしを一人にしやがって! 


と怒りながら泣いていた。


なんていうか、今でもその時の後遺症は残っていて・・・・・


あ!・・・・


事故にあった彼では無くてわたしがね。


彼を失う恐怖が刷り込まれているようで、たびたび、独りぼっちになる不安で潰されそうになることが今にでもある。


当時はもっと酷くて・・・


彼は目を覚ましてからも、入院が続いていたけれど、わたしはワガママで学校を休み続けるのにはいかず、久方ぶりに教室に入った。


教室にはクラスメイト三十人近くいたと思う、だけど、わたしは一人。


狭い教室に押し詰められた生徒の中で、わたしだけが、その中の更に狭い空間にいるように感じた。


その狭い一人だけの空間は

息苦しく、

寂しく、

虚しく、

何よりわたしは、怖くて怖くて仕方なかった。


あの時からぼっちは怖い。


このわたしだけしかいない狭い空間を出たくて堪らなかった。


藁にも縋る思いで、わたしは隣のコに話しかけようとした。


けど、うまく声が出ずに息だけが口から出て行くだけ。


おかしい、彼がいるなら普通に喋れたのに・・・と思った。


今改まって考えるとおかしいのは今だけでは無くて、ずっと前からわたしは異常だったのだと思う。


わたしは彼に過剰なほど依存していた。


そんな過剰系異常。


ただ、あの時はそんな異常から抜け出そうとしている最中だったと思う。


感染症に患った時、菌やウイルスに対して免疫が働いている時に熱が出るのと同じように、治そうとしているときが一番苦しい。


菌やウイルスを倒す為に体温を上げるように、わたしは必死で誰かに喋りかけようとしていた。


必死に友人を得ようとしていた。


だからって、わたしが上手く話せないのは変わらなくて、隣の子の顔を凝視しながら、声にならない音を発していたらしい。


らしいって事はつまり、わたしは言付けで聞いたって事。


正直あの時のことは不安でいっぱいで、記憶が定かではないのだ。


ちょっと大袈裟に聞こえるかも知れないけど、ホント、気がついたら友達ができた。


その友達の中には、わたしが話しかけようとしていた隣の子もいて、その子の話を聞くに、


わたしは顔を凝視して、声にならない音が出たと思ったら、いきなり抱きついて、泣いたそうだ。


そして、なんだかんだあって友達になった。


なんだかんだが、何なのかは秘密。


これは今でも使う新しい友達の作り方でわたしの企業秘密なのだ。


いずれ、話そうと思うから我慢しててね。


さて、こうして甲斐主理以外の友達ができたわたしが次にとる行動は何でしょう?


正解は・・・


ところ構わず、友達を増やすでしたー。


そう、わたしは幼馴染の彼の代わりとなる友達を増やした。


けど、増やしても増やしても満足する事はない。

わたしにとって、彼の代わりになるモノなんてないのだ。


とは言っても、増やす事はやめられないし、友人関係を解消することもできやしない。


つまり、わたしは彼の代用品を無駄に増やしまくっているのに過ぎない。


最低だな。と自分でも思う。


けど、勘違いして欲しく無いのは、わたしは彼以外の友人をどうでもいいなんて思っていない。


例えば、さっきの泣いて抱きついてしまった上野四葉ちゃんとは、学校は別だけど今でも誕生日にはプレゼントを送り合っていて、お互いをサキサキとヨツヨツって呼んでいるほど、仲良しだ。


ただ、彼以上ではないだけ。


余談だけど、わたしは必ず友人のあだ名は二回繰り返したものを使う。


さっき説明した上野四葉ちゃんの場合、名前のよつばのヨツを二回繰り返してヨツヨツと呼んでいる


理由は簡単、大事な友人の大事な名前は二回繰り返さないといけないから。


大事な言葉は二回繰り返す。


それがわたしのルール。


はい、余談は終わり!

てか、わたしの思い出話自体が余談だけどね。


では、本題は何なのか

それは勿論、わたしがパンダになって寝たフリなんてしたのか。


それは、もう少しわたしの思い出話を聞けば、わかると思う。


わたしがクラスメイトを制覇して、別のクラスに手を伸ばし始めたとき、未だ、わたしの幼馴染は入院している。


そして、わたしは放課後は友達とは遊ばず、毎日彼の病室に向かった。


けど、彼はどうにも元の調子に戻らない。身体はとっくに治っているのに。


だったら、『わたしがどうにかしなくちゃ』思い、様々な手段で励まそうとした。


一発ギャグ、漫談、マジック、バルーンアート、ジャグリング、タップダンス、トルコアイス、ラテアート、マグロの解体ショー


どれも不発。


しかも、マグロの解体ショーに至っては、病院を出禁にされた。


もうすぐ彼の誕生日なのに。


わたしは焦った。


焦りに焦りまくった。


これじゃあ、彼の誕生日を祝えない!

それは困りに困りまくる。


そんな危機を打破する為にわたしは作戦を考えた。


彼の誕生日は毎年、花火大会が開かれる。

その花火は骨川ほねがわの河川敷で打ち上げられる。


骨川はスネ夫の苗字ではなく、川の名だ。


そして、彼が入院している病院は骨川病院ほねかわびょういんで、骨川ほねがわの近くにある病院である。


だが、骨川ほねがわの近くにある病院だから、骨川病院ではなくて、創始者の名前が骨川ほねかわで骨川病院だからややこしい。


だから、単純な点は一つだけ。

花火大会は病院の近くで行われるって事だ。


当日は縁日が開かれ、病院内にも伝わるほど賑わう。


そして、わたしはこの賑わいを利用する。


彼の誕生日である花火大会の日、わたしは花火大会の賑わいに隠れて侵入し、彼を連れて病院を出た。


で作戦は殆ど終わり。


その後のプランは残り一つ、つまりラストプランは彼に綺麗な花火を見せること。


花火は病院から近すぎて逆に見づらいし、病院付近も人が多くて背の低い彼には最適ではない。


てな訳で、わたしはあらかじめ、最高な花火が見れて、人が少ない場所をリサーチしている。


ちなみに、このリサーチは一週間の時間を有した。


ここまで情熱をもって調べたのは、最高に綺麗な花火を見れば、彼の元気は戻ると本気で信じていたから。


誕生日プレゼントとして、素敵な花火を見てもらうんだ!


と意気込んでいたから。



で、結果は


事前に調べた場所からの花火は最高だった。

そして、何よりも、花火を見て、彼の表情が生き返ったのだ。



病室で披露した催しの中で一番練習したトルコアイスでも、こんなに温かく笑うことはなかったのに。


事故後の魂の抜けたような顔とは、段違いだ。


そして、彼は誕生日後、すっかり元の彼に戻った。


ただ、彼の誕生日は夏休み入ってすぐなので、彼が学校に戻るのは一カ月先だ。


わたしの友達の多さを見て驚くに違いない。とあの時、ウキウキしたのを今でも覚えている。


それから毎年彼の誕生日に、いつもの場所で、わたし達は花火を見る。



わたしは彼が生まれてきたことに感謝して。


対して彼は花火を観ながら、何を考えていたんだろう。


別に何を考えていてもいいのだけど、せめて、この日この時を大事だとは思ってて欲しかったと今にして思う。


一年に一日しかない誕生日を大事にして欲しかった。


わたしに誕生日を祝わせて欲しかった。


それなのに今年は、彼と花火を見ることはない。


浴衣を来て髪もバッチリ決めたのに、いつもの場所に彼はいなかった。






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