第17話


約束の日、つまり、幼馴染、甲斐主理の誕生日に彼はいなかった。


そして、今、パンダ耳なわたしは、彼と一緒に花火を見るはずだった場所にいる。



一人で・・・・・


そして彼がここに来ることもないだろう。


ここに来る途中も、門の前におねぇちゃんがいて、しばらくしてミミちゃんも門の前に見張り始めたから、門から外に出ることはできない。


わたしは門から家を出るのを諦めた。


わたしの家は塀で囲まれていて、唯一の出口はミミちゃんが見張っている門である。



唯一の出口から外に出れないとなると、わたしが隠れる場所は家の敷地内に限られる。


けど、それは普通に考えればの話・・・・


普通に考えれば、普通の人が外に出るのは不可能に近い。


敷地を囲う塀は5メートル近くあり、自力で飛び越えることはできない。


しかも、学校を囲うフェンスのように足をかけられる所もないので、登下校のように駆け登ることも出来ない。

 

と普通な彼もそう考えるのだろう。


そして、わたしが敷地内にいるとも勘違いする。


なんせ、彼は普通の人間なのだから。


わたしと違って・・・・・


ただ、わたしの体は少しパンダである。  


普通ではない。


パンダの手は竹をつかまりやすいように、二つの突起がある。親指側と小指側にそれぞれ一つずつ。


わたしの手も同様で二つの突起があり、更にパンダになって筋力も上がった感じがする。


そして何より、わたしの家は高い竹が沢山生えている。


つまり、竹を登って、塀の上を飛び越えることは容易なのだ。


完璧のように思える脱出劇だったけど、わたしはミスを犯した。


ダメダメだなぁ、少し反省しなきゃ


パンダ耳を隠さずに、家を飛び出しちゃった。


誰にも見つからないから良かったものの、誰かに見られちゃ一大事だったかも。


・・・・・・


うんうん、それじゃない。


何でこんな事しちゃったのかな。


今思い返してみると、最初はただの嫌がらせだった。

いや、現在進行形で嫌がらせになっているかも。


花火大会の日に居なかった彼にムカついて、少しイジワルしてやろうと思った。


だって、わたしにとって彼の誕生日は自分のよりも、重要で大事な日。


一年で一番大事な日を蔑ろにされた感じがして、凄く凄く嫌だった。


たとえ、彼にどんな事情があったとしても、簡単に許せないほど、わたしは彼の誕生日を大事だと思っている。


彼の誕生日は大事にしているのに、彼に嫌がらせをする事は矛盾しているのか?


否、わたしの中では矛盾はない。


彼の誕生日を大事=《イコール》彼を大事に思っているのだから。


わたしは彼が大好きなのだ。


いや、そんなもんじゃない。

彼がいなけりゃ、生きていけないんだ。




だから、非常に身勝手で、めんどくさくて、厄介な考え方をする。


・・・・・・・・・


わたしは彼に大事に思って欲しい。


少なくても、わたしが彼を大事に思っている程。


わたしはさっき、彼が誕生日を蔑ろにしたいる感じがして嫌だったと言っていたけれど、本当は違うのかも知れない。


彼の誕生日を祝う再々木咲姫を蔑ろにされたのが嫌だっただけ。


もっとわたしの事考えろ!

もっとわたしを大事にしろ!


そう思った。


だから昔に彼が入院している時、わたしが不安に襲われたように、彼にも同じ不安を味わせたくて、2ヶ月近く寝たフリなんかしたのだ。


あーなんて、面倒な女なのだろう。


抜けたパーカーの紐を元に戻すほうがマシなぐらい面倒。


パーカーで思い出したのだけど、いつもフードを被っている占いが得意な友達、たまこちゃん、通称マコマコがこう言ってたけな。


『あなたの身体におかしな変化が起こるでしょう。尚、それを利用すると吉』


って。


数日後、たまこちゃんの占い通り、わたしは少しパンダになった。


パンダになったことは驚きはしたけど、別に嫌ではなかった。


なんか可愛いし。


それにパンダ耳だったからこそ、寝たふりが成功したのだと思う。


きっと、パンダにならずに寝たふりをすると、病院に連れられ、寝たふりがバレてた。


だからってマコマコの占いを信じて、寝たフリをした訳ではないのだけど、てか、そもそも占いの内容を綺麗に忘れていたのだけれどね。


けど、占いを聞いてなければ、わたしは冬眠したフリなんてしなかったのではないのかなと思う。


恐らく占いの内容を忘れたと言っても、完全に忘れたのではなくて、記憶の片隅にあったからこそ、パンダになったことを利用して冬眠したふりをする考えが浮かんだのだろう。


だが、マコマコの占いでは吉になるらしいけど、全くもって吉にはならなかった。



わたしは冬眠するのは多くて3日ぐらいだと思っていた。


だって!


・・・・・・・


わたしが寝たきりになれば、彼が直ぐにわたしの駆け寄って泣き縋るって思ってた。


そして、わたしはバッと起き上がって


『ハハハ ドッキリでした! ざまぁみやがれ!! わたしが起きなくて、不安に思ったか! 心配したか! こんな扱いばっかしてたら、わたしだって愛想尽かすんだからな!! 愛想尽かされたくなかったら、もっとわたしを丁寧に扱って!! もっと丁寧に!!!』


って言う。


すると彼はホッとした顔をした後に


『やり過ぎだ。バカッ! 心配しただろ!!』

と怒る。


そして怒る彼を見て、わたしはヘラヘラするのだ。


それでわたし達は元に戻る。


そこまで考えていた。


なのに、彼は2ヶ月もお見舞いに来なかったし。

確かに、『二度と顔を見せるな』ってみたいな事も言ったけど・・・・・・


やっぱり、言いすぎたのかな?


いや、でも・・・・


だからって、2ヶ月も来ないのは流石にしんどいよ。


『わたしの事はどうでもいいんだ』


『寝たきりになったって何も思わないのかな』


なんてネガティブな考えばかりが頭によぎっていたんだよ。

ずーと、ずっと嫌な事ばかり考えていた。



でも、それを認めたくないわたしが大勢いて。

こんなにも長く冬眠したフリなんて続けてしまった。


時間が経てば経つほど、ネガティブな事を考える時間が増えてゆくし、冬眠したフリをめるタイミングが分からなくなる。


こうして無駄に寝たふりライフを過ごしていたのだが、どうしてか今日、彼がわたしの前に現れた。


どうしてか今日、彼がわたしに会いに来た!


嬉しい気持ちはあったけど、2ヶ月近く耐えたんだ、簡単にはネタバラシする気はなかった。


ギリギリまで彼の悲しむ顔を観察してやろうと思った。

夏休みの朝顔アサガオみたいに枯れるまで観察してやろうと思った。


けれど、彼の行動は観察の余裕がないくらいに予想外でかつ、わたしの心を攪拌かくはんした。


さて、ここからはハイライト。


彼はわたしの変わった姿を見てほっぺに触れた。何だかくすぐったいが、ここは我慢だ。


彼はほっぺの次は耳を触り始めた。

パンダになったわたしの耳を撫でわました。


あーヤバい! ヤバい! これはヤバい。

なんか、凄くムズムズする。


頑張れ、わたし! 耐えるんだ。


モフッ

『うぐっ!』


もふもふ

『ぐわっ!』


・・・・・


終わったかな・・・・


もふもふ

『キャッ!』


まだだった・・・


もふもふ

『んっ!』


もふもふ

『きゅうぅ!』


もふもふ

『んぁ!』


もふもふ

『んー』


もふもふ

『くぅー』


もふもふ

『ヤバい、ヤッバッイッ』


もふもふ

『キュルル』


もふもふ

『んぁ』



もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ

もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ

もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ







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