第15話

「そんなの寝たフリに決まってるじゃん」


珠玖ミミはあっさりと口にした。


咲姫が寝たフリなんて、馬鹿な・・・そんな馬鹿なことがあるのか?


「流石に寝たフリはないんじゃないか?」


「いや、サキサキは先程まで寝たフリしてたよ」

珠玖ミミは自信満々に断言する。


「でもよ、一ヶ月近く寝たフリするなんて無理でしょ」


「やろうと思えば出来ないことではないよ」


確かにやろうと思えば出来ると思うけれど、1ヶ月間ずっと寝たフリをするなんて、並大抵な根気が無ければ成し遂げることはない。


ずっと部屋から出ないだけでも辛いのに、動かないでいることは拷問にもなりうる。


それにトイレはこっそりとバレずに行くことは出来るかも知れないが、食事はバレずにすることは不可能に近い。


「お前は知らないだろうが、咲姫は飯を食べずに寝ていたらしい。こっそり盗み喰いしようにも誰かが食糧が減っていることには気がつくのではないか?」


「家の中で御飯を食べるなら君の言う通りだけど、コッソリ外で食べるなら食糧はそもそも減ることはない」


「まさか、咲姫は庭の竹を食ってたのか!?」


「全てがパンダになった訳ではないのだから、人が竹とか笹を食べられないでしょ」


そりゃそうだった。咲姫はパンダになったのは、見たところ耳と手ぐらいで、顎とかは人のままなのだから、咲姫が竹を食べることはない。


「君が言っていたでしょ。サキサキは学校の中だけではなくて、この地域一帯がサキサキの友達だって」


「だから何なんだ?」


「コッソリ抜け出して友達の家で御飯食べればいいってことだよ」


まぁ、確かにそれが一番いい方法かも知れない。耳は珠玖ミミのように帽子を被ったり、髪で隠したりすればどうにでもなる。


つまり、咲姫は楽に寝たフリ生活をしてた事になるのか。


・・・・・・・・


「なんだ、よかったぁー」


つまり、咲姫は少しパンダになっただけで、至って健康体ってことだよな。


zooウイルスに感染して、体の一部がパンダになったのは厳密には健康とは言えないかもしれない。

けど、寝たきりや、死の危険がないだけ十分だ。


「本当に良かった。てっきりこのまま起きないのかと」


それに、起きた時でも、咲姫の身に何か不都合があると不安で仕方なかった。


今更になって、安心で腰が抜けて、だらしない姿勢で座り込む。


でも、ホントに良かった。


咲姫が大変な思いをしていなくて。




「何で?・・・・何で怒らないの?」


咲姫は起きてから初めて僕に話しかけた。その時、彼女は何故だか拳に力を入れて肩が上がっている。


「確かに色んな人に迷惑かけたかもしれないけど、寝たフリの原因は花火大会の約束を僕が破ったからでしょ。それに加え、ビビってお前に会いに行けなかったから、ズルズルと寝たフリが続いちゃったんだろ。僕が怒れないよ」


「今更だけど、あの時と今まで、ごめんな。咲姫」


ようやく顔を合わせて謝ることができた。


けれど・・・


「ごめん言うな! バカ! バカーーーー」


咲姫は窓を開けて、外に飛び出して走ってしまった。


「待てっ! 咲姫」


僕は立ちあがろうとするも、まだ、腰が抜けて力が入らない。


そんな情け無い僕を実際に見下して


「君が腰が抜けている間に補足すると、サキサキが寝たフリをしていた理由は花火を一緒に見る約束を破ったからでは厳密には違う」


教えてあげようか?


と珠玖ミミは恩着せがましく僕の前に立つ。


「いや、いいよ。咲姫を追いかけて、直接聞く」


「そっか、残念。あぁー 最後まで推理ショーしたかったなぁ。・・・・・じゃあ仕返しに、サキサキを探すのに手伝ってあげない。私は門の前で休んでいるから、君が一人でサキサキを探しなよ」


そう言って僕に手を差し伸べた。


まったく、仕返しとかほざいているが、十分に咲姫と僕を助けてくれているじゃないか。


クマ耳を隠さずに出て行った咲姫が、敷地外に出て騒ぎにならないように、門の前で見張っているって事だろ。


「あぁ、助かるよ」


僕は差し伸べられた珠玖ミミの手をとって立ち上がった。


そして、咲姫を追いかける。

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