第14話
入念な準備運動を終えて、珠玖ミミは自身の推理を話し始める。
「まずはそうだなぁ、サキサキが何の動物に変化したのかについて語ろうか」
「そんなの分かりきっているだろ。咲姫はクマ耳で冬眠してたんぜ、変化した動物はクマしか考えられないだろ」
僕はすかさず口を挟む。
問題はコレではない。
咲姫が目覚めた謎が何も解決していない。
「あー、君はそこから話さないといけないようだね。サキサキが寝始めたのはいつだっけ?」
まるで、何が分からないのかすら分からない生徒を相手に先生が一から教えるような形で僕に質問をする。
「そんなの夏休みの初めからだろ」
「ここで疑問に思わないかなぁー だから、君は冬でも半袖短パンなんだよ」
珠玖ミミはやれやれと手のひらを上にして、肩をすくめる。
「クラスに一人はいる『わんぱく小学生』じゃないのだからそんな格好はしない」
「半袖短パン小僧って何だかんだ冬になると風邪引くよね、半袖短パンだからかな?」
咲姫がどうでもいいことを横に挟む。
「格好の事じゃなくて、君には季節感ってものがないのかな?って事だよ」
「はぁ? 僕は春は花粉症で苦しみ、夏は暑さに嫌気がさし、秋は秋花粉で痛みつけられ、冬は寒さで動けなくなるんだぞ。どこが季節感がないだ。むしろ、あり過ぎて困っているぐらいだ」
「君のは季節感ではなくて、各四季に対しての嫌悪感だよ」
「ともかく、夏に寝たきりになるのに違和感なんか無いと思うぞ」
「寝たきりになる事には違和感は感じないけど、冬眠なら違和感ありまくりだよ。だって夏に冬眠だよ」
「ん?・・・・・あっ!」
夏に冬眠って確かに矛盾している。
咲姫が寝たきりになったのは夏休みの序盤。そんな時期に冬眠する動物なんて存在しない。
「てなると・・・・どうゆう事だ?」
咲姫はクマで寝たきりだけど、それは冬眠では無い。てか、今は起きているってことは、そもそも冬眠ではなかった訳で、となると・・・ん? 咲姫はクマでは無い? いや、咲姫はクマに変化したと珠玖ミミは断言していた。
つまり、まとめると
『咲姫はクマに変化したけど、冬眠ではなく別の理由で寝ていた』
んーどうしよ、もっと分からなくなった。
「そもそも、サキサキはクマはクマでも冬眠しないクマなんだよね」
「冬眠しないクマ?」
「ほら、シロクマとかって冬眠しないでしょ」
確かにシロクマは寒さに適応しているから、冬眠はしないけど・・・・
「咲姫の耳は黒い毛に覆われているんだから、全身が白いシロクマは違うんじゃないか」
「ほー、そこには気付けたんだね。えらいえらい」
舐められてるなぁ僕。
「じゃあ、全身が白ではなくて耳が黒く、冬眠しないクマは分かるかな?」
クマ
耳が黒
冬眠しない
検索中・・・・・
クマ
耳が黒
冬眠しない
検索中・・・・・
クマ
耳が黒
冬眠しない
検索中・・・・・・
エラー
何か他に咲姫に変化は無かったけ?
何か些細な変化でもいいから
・・・・・
そういえば、咲姫の手を握った時に手のひらにコブがあったような・・・・・
クマ
耳が黒
冬眠しない
そして・・・・手のひらにコブ
検索中・・・・・・
●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●
「・・・パンダ」
◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯
●パンダ◯
正式にはジャイアントパンダ
食肉目クマ科ジャイアントパンダ属
中国を代表する動物であり、白を基調として、目の周り、手肢、両肩の間、そして、耳に黒色の体毛をもつ。
竹や笹を主食とし、竹を持ちやすいように手のひらにコブがある。
そして、群れや家族で行動せず、単独行動をし、冬眠をしないクマ。
「そう、サキサキはパンダに変化した。白雪姫ならぬ白黒姫って事だね」
「変化した動物がパンダってことは咲姫は何故寝たきりになったんだ?」
僕は張本人の咲姫ではなく探偵に問う。
情けない話、何だか咲姫に話しかけられない。それは多分向こうもそうだろう。
咲姫は目覚めてから一度も僕の事を見ない。それは単に喧嘩した後で気まずいからか、それとも他にあるのか・・・
僕を見ない理由がもし後者なら、それが寝たきりの理由にもなる気がする。
僕が一番に思い付いたのは咲姫が起こされた事で怒っているから。
それが、単に安眠を妨げられたから怒っているなら何も問題ない。
適当に食べ物を渡せば、直ぐに機嫌が治る。
だが、寝ている事自体が咲姫にとって大事なら話は変わる。
例えば・・・・
パンダは主食である竹や笹では効率的にエネルギーに変換することが出来ない。
だから、竹や笹を一日中、食べ続ける。
対して咲姫はパンダになったけれど、顎は人のまま。
彼女が竹や笹を食べ続けるのは不可能だ。
つまり、どうゆうことかと言うと、咲姫は新たにエネルギーを得られない代わりに、寝ることでエネルギーの節約をしていた。
それなのに、僕が咲姫を目覚めさせた。
もし、その仮説が正しければ僕が咲姫の寿命を縮めたって事になる。
命を縮められた咲姫が僕の顔を見たくないと思うのはしょうがない。
だが、僕が寝てないといけない咲姫を起こしたなら、それはしょうがないでは済まされない。
死ぬまで僕は僕自身を恨むだろう。
「サキサキが寝たきり?」
「あんなの寝たフリに決まってんじゃん」
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