第13話
横腹を蹴られて、僕は横に勢いよく飛ばされる。
恐らく僕は空中でくの字になっていたのだろう。その為に飛び出た腰を壁に強くぶつかった。
腰が強烈に痛む。
けれど、それ以上の衝撃で痛みは小さくなっていた。
なんせ、蹴り飛ばされたことよりも、まずその声のほうが遥かに衝撃的だったのだ。
「はぁ、はぁ、はぁ、だめっ!だめっ!」
クマ耳の再々木咲姫が息を切らしながら、必死な形相で立っていた。
何故か冬眠していたはずの幼馴染が起きていた。
「え!? 咲姫?」
驚きすぎて、彼女の名前しか言葉が出てこない。
そんな情けない僕の代わりに話しかけたのは珠玖ミミだった。
「はじめまして、再々木咲姫さん、今日転校して来た珠玖ミミです。私も主理くんと同じように咲姫って呼んでもいいかな?」
「・・・・・・」
社交的な咲姫には珍しく珠玖ミミの問いかけを無視している。
「それとも、他の友達のようにサキサキってほうがいいかな?」
「・・・・・・・そっちにして、そっち」
咲姫独特の話し方である、最後に同じことを繰り返す話し方。
「まぁ、そんなに怖い顔しないでよ。サキサキ、ほらお仲間、お仲間」
珠玖ミミは気にも止めずに帽子をとって、自身の耳を露わにする。猫耳な彼女の耳を咲姫に見せる。
咲姫はその耳を見て少し驚いた顔になるが、直ぐに険しい顔に戻る。
「ミミさんは誰なの?ねぇ、誰?」
「ちょっと前に主理くんと探偵と助手だっただけだよ。何も恋人同士ではない」
猫の国で一緒にいる時に僕と珠玖ミミは一時的にそんな関係だった。珠玖ミミは探偵で僕はその助手、それ以上もそれ以下もなかった。
「でも、さっき、キッ・・・・キスしようとしてたじゃん、キスを・・・」
「それはね、君を目覚めさせる為のちょっとした演技だよ」
「え!?・・・・・」
え!?
咲姫は2秒ほど驚いて黙った後に口を大きく開けて快活に笑い始めた。
「アハハハハハハ、騙されちゃったみたいだね、騙されちゃった。アハハハハハハッハ」
「騙してごめんね けど、サキサキも主理くんを騙していたんだから、許してくれるよね?」
僕は騙されていた・・・・
え!? 僕って騙されていたの!?
「アハハハ、やっぱり、ミミさんには気づかれてんだね。やっぱり」
「まぁ、面白い嘘ではあったよ。けどこんな罠は、お花摘みに行くって聞いたら、実際にお花畑に行くんだなーって思うほど頭の中がお花畑な主理くんぐらいしか引っかからないよ」
お花畑って・・・・
なかなか酷い悪口だぞ。それ
「アハハハハハハハハ、花っ摘み畑っアハハハハハハハハハッ」
別に対して面白くないのにツボる咲姫。コイツはただですら笑いのツボが浅いのに、僕の悪口になると更に浅くなる。
「イヒヒ、そんなに面白いかなぁ」
予想以上に大笑いする咲姫を見て、珠玖ミミは頬を掻いて、照れたような仕草を見せる。
「ミミちゃんってホント、探偵みたいだね。カッコいいね。うん、カッコいい」
「え! ホント? そんな事言われたの初めてだよ。今までだって、探偵を名乗ったら白い目でしか見られなかったから・・・・ホント嬉しいっ!」
そりゃ、探偵を名乗る高校生なんて、一種の厨二病だろうしな。言わば厨二病亜種、またはミステリー型厨二病。
そんな奴に自分から近づく人なんか少ないだろう。まして、カッコいいなんて思うのは咲姫ぐらいだ。
「じゃあさぁ、じゃあさぁ、推理ショーしてもいいかな? 名探偵みたいに」
推理ショーって・・・・・
この探偵気取りたらテンションが上がって、子供みたいにウッキウッキ。
「アハハ、いいね、いいね! 推理ショー面白そう、推理ショー」
珠玖ミミはそれを聞くと嬉しそうに準備を始める。
「すぅーーーーーーふぅーーーーーーー」
まずはゆっくりと深呼吸。
「プルルルルルルルルルルルルッ」
次に唇を震わせてリップロール。
「あいうえお! あいうえお! あいうえお! あいうえお! あいうえお!」
母音を五回繰り返す。
アナウンサー並みに発声練習しているなぁ
どんだけ気合い入ってんだよ。
どうやら、まだ準備が足りないようで今度は準備運動を始める。
手首、足首を回す。
屈伸、伸脚、膝を曲げない軽い連続ジャンプ。
そして、また深呼吸。
「すぅーーーーーーーーはぁーーーーーーー」
「プルルルルルルルルルルルル」
リップロール
「ぶぷっぷっぷしゅー」
咲姫も真似してリップロールしようとするが下手すぎる。
珠玖ミミは何度か準備運動を繰り返したら、満足したようで、
「よしっ!」
と声を発してから推理を披露し始める。
「では、聞いてもらおうかな! 私の推理を・・・」
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