第11話


咲姫にキスすることって人工呼吸と同じではないか?


人工呼吸は緊急時の医療行為であり、おとぎ話のようにキスで目覚めるとするなら、これも医療行為と言える。


ならば、僕がここでキスすることは医療行為と言えるな。


・・・・・


よし、やろう。


決心した僕は自身の顔を咲姫に近づける。


二人の距離が10センチまで縮まる時にふと雑念が生まれる。


『なんか、僕、咲姫にキスがしたいからって、無理に正当化してないか?』


正当化してるしてない以前に僕は咲姫とキスがしたいのか? 


なんか、客観的に見ると僕が咲姫にキスをしたいように見えないだろうか?


それだったら何だか嫌だな。


僕はあくまで咲姫を目覚めさせたい一心でいるのに、下心あるように思われるのは・・・・・


まぁでも、そんなの関係ないか。


僕は呼吸困難の女性がいれば、後の裁判沙汰を気にせずに唇を合わせることに出来る人間になると決めたんだ。


たとえ、後ろ指を刺されようとも!!


変態扱いされようとも!!


警察に捕まろうとも!!


目の前の人を救える、そんな人になるんだ。


(そして、今は誰も見てないし)


よし!


僕は再度、咲姫に近づけく。



残り、あと5センチ・・・

   

     4センチ・・・


     3センチ・・・



「何をしてるのかな? 君は・・・」


「えっ・・・・」


振り向くと、そこには猫耳探偵、珠玖ミミがいた。


●◯●◯●◯●◯●◯●◯●




「くっ曲者ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


慌てて思い切り叫んだ。


「曲者は君だよ」


そして冷静に返された・・・


「心配して、来てみれば君は何をしていたの? いや、何をしようとしていたのかな?」


あーやばいな、これはやばい。変質者を見るような目だ。


「まさか、おとぎ話を真に受けて、キスで目覚めさせようとしてんじゃないよね?」


その、まさかです。


「キスで問題が解決出来るわけないでしょ」


全くその通りです。


「で、何か言い訳でもあるなら聞くけど・・」


どうしよう、どうやって誤魔化そう。

黙ってたら余計に不信感を抱いてしまう。


何かしら喋らないと・・・・



「・・・・・おー、なんだ、探偵の珠玖ミミさんではありませんか! 丁度聞きたいことがあったんだ。咲姫を見てくれよ!」


「これは・・・・・」


珠玖ミミは咲姫の姿を見て目を目開く。


「あーそうなんだよ。咲姫の耳が獣の耳なんだよ。やっぱりこれってお前と同じでzooウイルスに感染した影響だよな」


「そ、そうだろうね」


「・・・・・・・・」 


あ、もう既に話すことがなくなかった。


「で、状況は理解出来たけれど、どうして彼女の顔に君の顔を  」


やばいぞ。この後に続く言葉は


『近づけたんだね?』


だろ。多分


最後まで言う前に、どうにかして別の話題に変えないと


白雪姫と眠り姫の違いか?

ダメだ。寧ろ、そこから僕が咲姫にキスをしようとしていた話題に繋げられる。


「 近づーーーーー」


もう、手遅れぽいな。

ここで僕の人生は終わりか。短く細い人生だった・・・・


「近づーーーーーけーーーー」


ん? 何でわざわざ伸ばして言うんだ?


「近づーーーーーけーーーーたーーー」


いや、違う。


「近づーーーーーけーーーーたーーーんーー」


これはスポーツ漫画でお馴染みのゾーンってやつだ。

危機的状況下で脳が極限まで研ぎ澄まされて、思考が加速されるやつ。

その物凄い速さの思考速度によって周りがゆっくりと動いているように感じている。


あーーーーーーーーーーーーーーーーーー

考えろ、考えろ、考えろ、


あ!


「咲姫が眠ったままなのはzooウイルスの副作用みたいなものか?」


「んっ? えーと、多分違うよ。zooウイルスは身体の一部分を他の動物にする以外何もしない」


「つまり、咲姫が寝たきりなのは、変化した動物の特徴によるものと?」


「恐らく」


「てなると、変化したのは寝てばかりいる動物なのか? 例えば・・・・・ ナマケモノとか、いや、ナマケモノは代謝が低くなるべく動かないだけで、常に寝ている訳ではないし・・咲姫も食事やトイレにも行かないから、代謝は低く保っている点は共通していると思ったけど、常に寝ている点が違うな。うーん



僕の作戦はこうだ。

喋り続けて、珠玖ミミの話す隙を与えない。

話す内容はどうでもいい。

下らないことでも、矛盾していても、突拍子なくても、取り敢えず何でもいいから喋り続けるんだ。僕が喋っている間は珠玖ミミが僕を問い詰めることはない。

そして、その間に何かいい言い訳を思いつく算段。


「寝てばかりいる動物は沢山いるけど、寝続ける動物はいないよな?・・・・・・てなると、常に寝続けるわけではなくて、ある条件下で寝続ける動物ってことか。条件となると、年齢、栄養状態、ストレス、それとも気温、季節・・・・・あ! 咲姫が眠ったままなのはしているからではないか! 


冬眠する動物は限られている。しかも冬眠状態で摂食、排泄しない動物は更に限られる、咲姫の変化した耳の形状も考慮して推測すると、咲姫が変化した動物はクマ?」


あれ? 時間稼ぎで思いつくまま喋っていたら、なんか咲姫が寝たまま起きない謎を解いちゃった・・・・・







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