第6話 新たなる始まり
気づけば朝になっていた。
とにかく落ち着かない。
覚悟はしていたつもりだが、別れがここまで悲しくなるものだとは思ってもいなかった。
身支度を済ませ集合場所に向かった。
今日朝食は食べなかった。朝食を食べに行って誰かに会うのが怖かったから。
集合場所には既に何人か集まっていた。
補助組が集まり終わったすぐ後、ゼノ様達がやってきた。
昨日のどんちゃん騒ぎのせいか、ガロン様とマリ様は幾分体調が悪そうに見える。
「やあやあ、おはようみんな」
『おはようございます!ゼノ様!』
「昨日はよく眠れたかな?」
ゼノ様がチラリとこちらを見た気がした。
「今日は出発する前に、皆に言っておかなければならない事がある」
皆が何だろうと不思議そうな表情をしている。
この旅でゼノ様が改まって何かを言おうとするのは初めてだ。
僕は自分の心臓の音がいつもの倍の速さで動くのを感じた。
そしてその音が皆に聞こえてしまうのではないかと思えるぐらいはっきりと心音を感じた。
「今日・・・。いや、今をもってスピカはこの旅から抜けることになる」
ついにゼノ様が皆に伝えてくれた。
僕は下を向いたまま皆の表情を見ることができなかった。
そして誰も言葉を発することはなかった。
恐らく、皆がゼノ様の発言をすぐには呑み込めないのだろうと感じた。
一番最初に聞こえたのはノックの声だった。
「嘘だろ・・・?冗談ですよね?ゼノ様まだ昨日の酒が残っているんじゃないんですか?」
ノック笑いながらゼノ様に訪ねたが、ゼノ様の沈黙で冗談じゃないことが分かったようだ。すぐに大きな声で問いかける。
「なぜですか!スピカはここまで一緒に頑張ってきたじゃないですか!おいスピカ!お前もなんか言えよ!なんで黙ってるんだよ!」
僕は何も言えずただ下を向くことしかできなかった。
「ノック、他の皆もよく聞いてほしい。これは僕が・・・、勇者として、決めたことだ。彼はこの後の旅についてくることは難しいだろう。僕もみんなを守れるという保証はない。だから・・・。スピカとはここでお別れだ」
僕はゼノ様の言葉を聞いた瞬間自分の耳を疑った。
ゼノ様が決めたことだって?僕のわがままで言ったことなのに?
だが、僕はすぐに理解した。これがゼノ様の優しさだということに。
あの人は自分が悪者になることで僕に責任を負わせないように、
この後皆から責められることがないように守ってくれているのだ。
僕はゼノ様の優しさに耐えられそうになかった。が、この場を逃げ出すわけにはいかなかった。それではゼノ様の優しさを無駄にしてしまう。
「なんで・・・。なんでだよ!!」
ノックはゼノ様に殴りかかろうとした。が、ガロン様に抱きかかえられ止められてしまう。皆も状況を理解したのか、泣きじゃくる声が聞こえる。
サクラはどう感じているのだろう。
「私も・・・。私もスピカと一緒にここに残ります!私はスピカに助けられてここまで来ました。なので、ここでスピカと一緒にいさせてください!」
サクラ?
サクラが何を言っているのか理解ができなかった。
僕と一緒に旅をやめるってこと?
「サクラ、君ならそう言うと思っていたよ。もちろん君がスピカと一緒にいたいというなら僕らは止めないよ。他の者もスピカと一緒にいたいものはいるかい?」
「・・・俺も残ります」
ノックまで?!
もはや何が起きているのかスピカには理解できなかった。
「よし、じゃあスピカ、サクラ、ノックとはここでお別れだ。3人ともここまで一緒に来てくれてありがとう。君たちには感謝しかないよ。これからの事はどうか安心してほしい。僕が王には伝えておくから怒られることはないよ」
ゼノは笑いながら僕ら3人に笑いかけた。
「さあ、出発だ」
スピカ、サクラ、ノックの3人は町の外まで勇者一行を見送った。
去り際、ゼノはスピカに近づきこう言った。
「君は役に立たないことも、何か足りないということもないよ。こんなに仲間が、友がついてきてくれるんだ。君にもきっと成し遂げられることがあるはずだよ。自信をもってね」
そう言い残すと、ゼノ様は笑顔でこちらを向きながら手を振っている。
他の皆も手を振っている。泣きながら振っている者もいる。
僕は最後のゼノ様の言葉に勇気が湧いてきた。
僕は旅を降りたが、勇者様達を支えない訳ではない。
別の方法で支えようと思っているだけだ。
よし、これからが再スタートだ。
「ゼノ様!ありがとうございます!」
そう言ってゼノ様にお辞儀をした。
ようこそ、勇者御一行様! 矢口ウルエ @yaguchi-urue
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ようこそ、勇者御一行様!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます