第5話 決意
昨夜の事から僕はある事を決意した。
けど、昨日とは全く意味合いが違う考え方だ。
僕は旅を降りることを決意した。
タイミングは次の町に到着した時。
僕はゼノ様に打ち明けようと思っている。
その時サクラはなんて言うんだろうか。
僕らは次の町を目指し冒険を続けた。
王都を出てから3ヶ月ほど経つがさすがに皆疲労の色がみえている。
旅は思っていた以上に戦闘の連続だった。魔王の城に近づくほど魔物の数が多くなっている気もする。
相変わらず僕は何もできないが、ゼノ様達のおかげで安全に進む事ができた。
程なくして僕らは町に着いた。
王都ほどではないがかなりの賑わいを見せている。
町に着いてまずは宿を探した。
ゼノ様と旅をして気づいた事があるが、どこの町も皆勇者様を歓迎している。
それだけ人望が厚く信頼されるような人格なのだ。
僕はいつしかゼノ様に対して強い憧れを抱き、彼のようになりたいと思った。
そして、だからこそ、この旅で彼らの足を引っ張るわけにはいかないと考えたのだ。
宿に入るなり、
「いらっしゃ・・・。勇者様ですか!?」
「ええ。今晩こちらに泊めていただきたいのだが空いている部屋はありますか?」
「もちろんでございます。とびっきりの部屋をご用意させていただきます」
と、こんな調子でいつも僕らはその宿で一番良い部屋に泊めてもらう。
その晩、僕らはゼノ様と一緒に食事に出かけた。
そこでも客が勇者様とわかると店がとことん料理をふるまってくれた。
久々の町で食べる料理に皆上機嫌だった。
「ノック、お前だいぶ強くなったんじゃないか?」
「本当ですか!?ありがとうございますガロン様!」
「もう一度勝負してみるか?」
そう言うとガロン様は右腕を机の腕に置いた。
ノックはそれに応戦するため右腕の裾をまくった後机に手を置き、
ガロン様の手を握った。
マリ様が間に立ち、二人の手の上に手を置いた。
周りにいた客も何が行われるのか察したようで、僕らの周囲に集まってきた。
「始め!!」
マリ様の合図とともに二人は思いっきり力を入れた。
ぐっ・・・。という声を漏らしながら互いに手に力を籠める。
おっ、ノックが少しずつガロン様の手を倒し始めた。
ノックが勝つのか!と思った瞬間、ガロン様がニヤッとした。
「あっ、ダメだ。」
そう思わず口に出した瞬間、バーン!!という激しい音とともに決着がついた。
「いてて・・・。ガロン様ちょっとは勝たせてくださいよー」
「がはは。俺に勝とうなんぞ100年早いわ!!」
ワー!!!っと歓声が上がる。
店は大いに盛り上がった。
「今日は俺のおごりだ!!」
ガロン様のその一言で店は更に盛り上がる。
さっきまで机に座っていた他の客も一気に立ち上がり、
知らない人であろう隣の人と肩を組みながら酒を飲み始めた。
僕らも周りの客が周囲を囲み、ガロン様やマリ様、ユーノ様に話しかけに行く。
ちょうどガロン様とマリ様がどちらが酒を多く飲めるか対決している時、
僕はゼノ様がいないことに気が付いた。
「あれ、ゼノ様は?」
隣にいたサクラに問いかけるが、サクラも他の客に話しかけられており声が届かない。
店を見渡しても見当たらないため店の外に出てみた。
すると店のすぐ外にゼノ様は上を見上げながら立っていた。
「スピカか。上を見てごらん。今日はきれいな満月だ」
言われるままに上を見てみる。
確かに今日は綺麗な満月だ。
そういえば旅に出てから一度も上を見上げることがなかった気がする。
満月を見ていると、ゼノ様に伝えたいことがあることを思い出した。
「あの、ゼノ様にお話ししたいことが」
「この旅から抜けたいんだろう?」
ゼノ様にはお見通しか・・・。
「なぜ抜けたいんだい?」
すぐに答えることができなかった。
なぜか声が出なかった。
決意し、自分で決めたことなのに。
「僕は・・・。このままだと旅の、皆さんの足を引っ張ってしまいます。この先魔王の城に近づけば更に魔物は強くなります。それなら僕がいない方が早く城へたどり着けるし、戦いもしやすくなる。この先僕は足手まといになります」
ゼノ様は少し黙って考えたのち、
「そうか。スピカ。確かに君は戦闘が苦手かもしれない。でもよくやってくれているよ。誰も君が足手まといだと思ったことはないし、この先も君が必要だ。もしかすると今後話を聞いてくれる魔物がいるかもしれないし、実は魔王は話を聞いてくれる故かもしれない。その時こそ君の出番だよ。それでも君は旅を抜けるというのかい?」
ゼノ様は僕の特技を覚えていてくれていたんだ。
それはとても嬉しい事、なによりも求めていた「人に認められる」という事だ。
今すぐにでもさっき自分が言った言葉を取り消して一緒に居たくなるほどに。
でも・・・。それではダメだ。
「はい、僕はここでお別れします」
「そうか・・・。その事はサクラやノックには?」
「伝えていません。誰にも」
「それほどまで悩ませていたんだね。すまなかった。これは僕の責任だ」
「いえ、ゼノ様のせいではないです。自分が弱いから・・・」
そこまで言うと、ゼノ様は少し沈黙を挟み話し始めた。
「スピカ。僕は昔弱かったんだ。今の君よりうんとね。周りの子よりもずっと弱くて、魔法も使えないし、力も強くなかった。みんなからいじめられて、親からも見放されていた。そして、そんな自分自身に諦めていたんだ。そんな時、僕はある人に憧れたんだ。そう、先代の勇者であり今の王であるグラント王だ。彼は前回の魔王との戦いの時に僕の町に来たんだ。その時は衝撃を受けたよ。こんな人が世界にいるなんてって。でも、すぐに彼とは才能が違うからって諦めたんだ。ちょうど君くらいの時だったかな?」
ゼノ様が弱かったって?
それは嘘だ。
とても強くて優しくて、いつも諦めない。それが今の勇者、ゼノ様だ。
「で、グラント王は僕らの町に着いて少しの休息をとったんだ。町のみんなはちょうど今の僕らのように店に押し寄せて、グラント王と話をしようとした。でも、彼はそこにはいなかった。どこにいたと思う?」
「宿で寝ていたんですか?」
「いや、違うんだ。彼は町の外で剣の素振りをしていたんだ。僕が町のみんなが騒いでいるのが嫌で、町から少し出ようとしたときだ。当時の勇者がだよ?僕は衝撃を受けたね。で、彼に話しかけた。『なぜあなたが素振りをしているのですか?』って。そしたら彼、『俺には才能がないから努力するしかないんだ』って言ったんだよ。もう、雷に打たれるくらいの衝撃だ。勇者になって、国で一番強いと言われる男が誰よりも努力していたんだ。そして彼は『才能があるというのは確かにアドバンテージになる。でも、その才能を生かすのはいつだって努力と諦めない心なんだよ。そして、努力や諦めない心は誰しもが持っていて平等なものなんだ』って。
彼が町を去ってから僕は彼の言葉を信じて、必死に剣を振り魔法を練習した。どれだけ馬鹿にされようが、努力と自分自身を信じたんだ。そしたら僕が憧れていた勇者になれたんだよ」
僕は信じられない話の連続に言葉を失ってしまった。
「と、まあ僕もなんとかここまで来れたのも努力と信じる心のおかげさ。そして、今の君からも自分自身を信じようとしている、決意している。そんな表情をしているね。だから僕は君を止めはしないよ」
僕はなんとか声を絞り出し、
「・・・ありがとうございます」
とだけ口にした。
「明日の朝出発するから、その時に皆に伝えよう」
そう言い残すと、ゼノ様は店に戻っていく。
僕は混乱する脳をなんとか落ち着かせ店に戻る。
今日はどうやっても寝れそうにない。
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