第4話 心の折れる音
勇者様との冒険は想像以上に大変だった。
いや、大変という言葉では片づけられないほどだ。
王都を出発し数日が経ったが、正直もう帰りたい。
理由はいくつかある。
まず、戦闘を初めて見たこと。
村では人と魔物が共存している。
つまり争いごとはあっても殺しあうことはない。
初めて戦闘を見たときは耐えられなかった。
ゼノ様の剣が敵を切り裂く際のしぶきや、ガロン様が敵を殴る音、
マリ様が魔法で敵を焼き尽くす臭い。すべてが初めてで耐えられなかった。
何より、魔物の言葉が、苦しむ言葉が聞こえてくることが一番堪えがたかった。
初めて見たときは吐いてしまい、隣でサクラが背中をさすってくれたが、
あまりの衝撃に倒れてしまったのを覚えている。
その時はユーノ様にヒールもかけてもらい無駄な魔力を使わせてしまい、
とてつもなく申し訳ない気持ちになった。
次に、目的地にたどり着くまでにはかなり長旅になり体力が持たないということ。
村にいたころは村からそう遠くに行くことなど滅多になかった。
しかし、旅というものは想像以上に疲れる。
気力も体力もすぐになくなっていってしまう。
特に夜は特に気が休まらない。
ゼノ様達にはゆっくりと休息をとってもらうため、基本的には僕ら補助係が交代で警戒している。これが・・・。怖い。
いつ敵が襲ってくるのかわからない恐怖に最初はちょっとした音にびっくりしてしまった。もちろん、今でもまったく慣れず足を引っ張ている。
でも一番の問題は、僕に個性がないこと。この旅で全く役に立たないということだ。
冒険王都を出たばかりのころ、緊張している僕らに対してゼノ様が緊張をほぐそうと皆に自己紹介をさせたことがあった。
皆それぞれ名前と特技を発表した。
サクラは父に習った剣術が得意だと言った。
騎士団長に興奮していた彼は「ノック」というらしく、彼の得意なことは力自慢と言っていた。なんでも村では喧嘩に負けたことがないらしい。その話を聞いたガロン様が面白がって力比べをしていた。もちろん、ノックが勝てるわけがなくコテンパンにやられたのを見て皆は笑っていた。
他にも魔法が得意なもの、薬草を作れるもの、料理が上手なもの、皆様々な特技を発表していった。
最後に僕の番になった。
「ぼ、僕の名前はスピカです」
「スピカ君の得意なことは?」
「えっと・・・。えーっと・・・」
「なんだスピカ、お前自分の特技も言えないのか」とノックは笑った。
「思いつかないかな?なんでも大丈夫だよ」
少し黙っていると、
「スピカは魔物の言葉がわかります!スピカは森で魔物から私を助けてくれました!」
「ほう、魔物の言葉がわかるなんてスゲーじゃねえか」ガロン様は褒めてくれた。
ありがとうサクラ。
サクラのおかげで僕は何とか特技を発表することができた。
魔物の言葉がわかるのは珍しいらしく、皆が僕の特技に興味を持ってくれた。
ユーノ様は今度教えてね。なんて言ってくれた。
だけど、あまり特技を発揮する場面はなかった。
これが最大の悩みだ。
特技は珍しいのかもしれないがそれを発揮する場面が全くないため、
結局何もできずに終わってしまう。
サクラはゼノ様達が戦うまでもない弱い魔物を倒したり、
ノックは荷物を多く持ったり力仕事は何でもこなした。
他の皆も様々な場面でしっかり仕事をこなした。
いつも僕は皆の足を引っ張ってしまう。
今日もいつものように戦闘をしながら歩き続け、次の町を目指した。
今日も僕はいつものように何もできなかった。
その夜、僕は逃げ出した。
ちょうど夜の見張りが僕とサクラだった。
サクラが見ていないスキを狙って逃げ出した。
どこに向かっていいのかはわからなかった。
でも、とにかく走った。
どうやらサクラがすぐ気づいたらしくすぐ後ろを追いかける気配がしている。
僕はお構いなしに夢中で走った。
気づけば森の奥の湖のほとりまで来ていた。
荒くなる呼吸を抑えていると冷静になる自分がいた。
ふと我に返り、これから行く当てがないことに気づいた。
「これからどうしよう」
呟いたとき、
「スピカ!!」
振り返るとサクラがいた。
彼女もかなり息を切らしていた。
「どうしたのスピカ」
僕は答えることができなかった。
「なにかあったの?」
「僕は・・・。この旅についてくるべきじゃなかったんだ。僕にできることは何もない」
「そんなことないよ。スピカはよくやってるよ」
「いや、いいんだそんな慰めは。僕が一番よくわかってる。このまま魔王に近づけばもっと険しい道になる。その時僕はより足を引っ張ることになるよ」
スピカはじっとこちらを見ている。
「そっか・・・」そんな風に呟いたように聞こえた。
そしてくるっと反対を向いて歩き出した。
それを見て僕も湖の方に向きなおした。
これでいいんだ。
これで誰の足も引っ張らないで済む。
これからどうしようと考えたとき、
背中に鈍い痛みを感じた。
次の瞬間、僕は目の前に水面があるのが見えた。
そして湖に落ちた。
何が起きた・・・。
たまらず僕は水面から顔を出した。
さっき僕が立っていた方を見ると彼女、サクラが立っていた。
どうやらサクラはこちらに戻ってくるなり、僕を湖に突き落としたみたいだ。
「スピカのバカ!あんたが何も役に立っていない訳ないじゃない!確かに・・・、料理は苦手だし、弱いし戦闘じゃ役に立たないかもしれない・・・。でもね、あんたは私を助けてくれた。森の中で私を魔物から守ってくれたじゃない。そんな勇気があるのになんで途中で逃げようとするのよ!」
「何もできないなら、できるようになるまでやればいいじゃない!教えてもらって練習すればいいじゃない!せっかく魔物と話せるんだからそれを活かせるように考えればいいじゃない!」
確かにそうだ。僕は初めての事ばかりで少しパニックになっていたのかもしれない。
湖の冷たさが僕の頭を冷やし冷静にしてくれた。
きっと初めての冒険で疲れていたのだろう。
そうだ、できることをやっていけばいいんだ。
スピカはいつも僕を助けてくれる。
ありがとうスピカ。
僕は岸まで向かって泳ぎ陸に上がった。
「ありがとうサクラ。おかげで目が覚めたよ」
サクラは目を赤くしながら鼻水をすすっていた。
僕はサクラに微笑みかけた。
「もう大丈夫、みんなのところまで戻ろう」
サクラと皆のところに戻ろうとした時、ふと思いついたことがあった。
もしかすると、皆疲れているかもしれない。いやそうに違いない。
僕は村から出たこともなく戦闘もしたことも見たこともなかったし、
初めてだらけの事でパニックになった。
なら皆はどうだろう。
きっとサクラもノックも初めてのことだらけで、気持ちがギリギリかもしれない。
僕らだけでなく、ゼノ様達も顔態度には見えないが疲れているに違いない。
そこでさっき湖に入ったことを思い出した。いや、正確には突き落とされたのだが。
この冒険が始まってからというもの、川や湖が少なく水浴びできることも多くはない。
そうか・・・!
「サクラちょっと待って!」
僕は一つ思い浮かんだアイディアを実行するためスサクラを呼び止めた。
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