第3話 出発
グラント王の命令が下されてから一日自由の時間が与えられた。
その日は全く落ち着かなかった。
まさか勇者様と冒険することになるとは。
あらためて昨日の出来事を思い出しても信じられなかった。
とりあえず、お父様とお母様に手紙を書こう。
このまま旅立っていたらきっと心配してしまう。
―拝啓、お父様 お母様
村を出てからまだ数日しか経っていませんが、お元気でしょうか。
僕は村を出てから色んなことを学びました。
そして、「サクラ」という女の子の友達もできました
他の子が魔物と話せないことも知りましたまさか、それが僕ら村の人間だけの事だとは思いもしませんでした。
今回お手紙を書いた本題ですが、僕は旅に出ることになりました。
誰と一緒に行くと思いますか?なんとあの勇者様達と行くことになったのです。
村を出発したときには全く考えられませんでした。
でも、行くかどうか問われた時お父様とお母様の言葉を思い出し旅立つ決心がつきました。
正直、僕に何ができるかわかりませんし、自信もありません。
でも、お父様とお母様が村の皆に自慢できるくらい立派になって帰りたいと思います。
これからどのくらいの期間旅するかはわかりませんが、必ず帰ってきますので安心してください。
どうか、お体に気を付けてください。
―スピカ―
手紙を書き終わり、一息ついた。
これからどれくらいの時間、村に帰ることができないのだろう。
僕にできることはあるのだろうか。
他の皆は不安がないのだろうか。サクラはどうだろう。
不安が消えることはなかったが、やれることをやるしかないと決意した。
コンコン、と部屋をノックする音が聞こえた。
ドアを開けるとそこにはサクラがいた。
「どうしたの?」
「いや・・・、ちょっと一緒に散歩したいなと・・・」
サクラの表情はどこか不安げだ。
「よし、じゃあ行こうか」
僕らは街の中心にある広場まで歩いた。
途中、パンを買ったので二人で広場の噴水に座りながら食べていた。
するとサクラが口を開いた。
「スピカは不安じゃない?」
やはり。
一番に名乗り出たサクラも不安があるようだ。
それがわかると少し気が楽になった気がした。
口元が緩んでいたのかサクラがそれにツッコむ。
「な、なに笑ってるのよ!」
「いや、バカにしてるわけじゃないんだ。僕だけが不安なのかと思っていたからさ。
それに一番最初に手を挙げてたサクラも不安になるんだなって」
「私だって不安にもなるわよ。手を挙げたのだって勢いというか・・・」
「サクラも同じ気持ちでなんだか安心したよ」
そういうとサクラは急に立ち上がり「行こっ」と言って歩き出した。
心なしか彼女も少し表情が和らいでいる気がする。
僕も立ち上がり少し先にいるサクラの元へ小走りした。
これから始まる冒険もサクラがいれば乗り越えられる気がする。
次の日、僕らは城の前に集合した。
僕らの前には強そうな4人と騎士団長が立っている。
そう、勇者様達だ。
僕は勇者様達について詳しくなかったのでサクラから教えてもらった。
ある日、魔王軍が誕生した。なぜ現れたのかは誰もわからないが、この国に伝わる伝説によると何年かに一度突然現れるとの事だった。
魔王が現れた時、国から勇者を選出する。これも伝説の一つのようだ。
勇者の選別方法は簡単だ。城に眠る伝説の剣を引き抜くだけ。この剣を引き抜けた者が勇者となる。簡単だが難しい。引き抜けるものは選ばれしものだけで、優しさや強さ、あとは運も必要だとか。
城に集まった者たちが順番に挑戦していき、引き抜いた人が僕らの目の前にいる勇者「ゼノ」だ。彼はとても優しそうでその中にも強さがある。一目見ただけでわかるほどだった。
彼がこれまでの旅で仲間になったのが他の3人。
戦士の「ガロン」、魔法使いの「マリ」、僧侶の「ユーノ」だ。
彼らはそれぞれこの国一の実力者で、大変人気がある。
ちなみに前回の勇者はグラント王らしい。
どうりで強そうなわけだ。
今回僕らの旅は彼らに同行し、様々な補助をし手伝いをすることだ。
4人を目の前にして改めて僕にできることはない気がしてきた。
前回魔王を倒したグラント王の時は同行者などいなかったらしい。
でも、その旅で荷物の問題や食事の問題、その他戦闘以外の部分で大変だった事が多かったようで、次の勇者には先頭に集中できるよう同行者を付けると決めていたようだ。
前にいた勇者ゼノが口を開く。
「僕はゼノ。今回勇者に選ばれたからには魔王を倒しこの国の脅威を取り除かなければならない。そのためにどうか皆の力を貸してほしい!」
そう言うと彼は持っていた伝説の剣を空に掲げた。
『うおー!!』
どうやら皆やる気満々のようだ。
城で騎士団長に興奮していた彼なんか飛び跳ねてみたことないほど興奮している。
「では、行くぞ!!」
そう言って勇者ゼノを先頭に歩き出し、
ガロン、マリ、ユーノの3人が続いた。
その後ろを僕らが荷物を持ちながらついて行く。
街は勇者を応援するもので溢れていた。
そこらじゅうで『頑張ってねー!!』とか『頼んだぞー!!』という応援の声で溢れていた。
僕は村を出発した時と比べ物にならないほどの緊張と不安、少しの誇らしさがあった。
どうやら隣にいるサクラもおんなじ気持ちらしい。少しだけ鼻の穴が膨らんでいる気がする。
こうして僕らは街を離れ、ついに魔王を倒す冒険の補助が始まった。
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