第2話 グラント王からの指令

ついにグラント王からの招集の日がやってきた。

正直昨日は眠れなかった。

これから何が行われるのか、どんな話をされるのか。

どうも悪い方向ばかり思い浮かんでしまう。

特に、戦いの場に駆り出されるのは困る。

僕は力が弱く、武器も使えず魔法も使えるわけではないから。

一抹の不安は拭えないが、お父様に頂いた言葉を信じるしかない。


宿屋の一室で朝食を食べれたのでそこでサクラと待ち合わせをした。

朝は苦手なのか、彼女は少し寝ぼけた顔をしている。


「おはよう、サクラ昨日は眠れた?」

「おはよう、スピカ。昨日は全く眠れなかったわ。スピカは?」

「僕もまったく眠れなかったよ。これから王のところに行くわけだからね」

「だよね」


どうやらサクラも僕と一緒で眠れなかったようだ。

まあ、気持ちはすごくわかる。王から呼び出されることなんてほとんどないから。


朝食を食べ終わりサクラと二人で王のいる城へ向かった。

何度かお父様と一緒にこの城を見かけはしたが、今日は一段と大きく見えた。

本当にここに入っていいのだろうか・・・。

僕が迷っているとサクラが先陣を切ってくれた。


「スピカ、行こ」

「う、うん」

「スピカはこの城に来るのは初めて?」

「うん、一度王都に来た時に見かけはしたけど中に入るのは初めてなんだ。サクラはあるの?」

「うーん、一度だけね。前に父が何かで呼ばれて一緒についてきたの。それっきりかな。そんなに入れる場所ではないもんね」

「さすがに緊張しちゃうな・・・」

「オークにビビらないスピカでも城の大きさにはビビるんだ」


そう言って彼女はいたずらっぽく笑い僕を元気づけてくれた。


城に入るなり僕らは城の騎士のような人に案内された。

かなり立派な鎧を着ていたのできっとすごい騎士なんだろう。

僕らは部屋に通され、少し待つように伝えられた。

部屋には10名ほどの同い年くらいの子が集められていた。

でも、その中に知っている人はいなかったしサクラも知ってる人はいないみたいだ。

様子を見る限り、他の子たちも互いに知らない者同士らしい。

中には、「さっきオーウェン騎士団長みたぜ!」なんて近くの子に話しかけている元気な子もいたが、僕には何のことかさっぱりわからなかった。


「サクラ、オーウェンって誰?」

「えっ、スピカ知らないの?この王都で勇者様のパーティーの次に強いって言われている人よ」

「そんなに強い人がいるの?なんで勇者様と一緒に行かないんだろう?」

「勇者様と一緒に行ったら、この王都を守るための指揮官がいなくなっちゃうからって父が言っていたわ」


なるほど。確かにそうか。

攻撃は勇者様に任せて、守りはオーウェンさんが行うのか。

これはすごく理にかなっているかもしれない。


そう考えているうちに、僕らのいる部屋にさっきの騎士の人が来た。


「グラント王がお待ちだ。皆、すぐに準備して後についてくるように」


どうやらこの人がオーウェン騎士団長のようだ。

後ろでさっきの子がしゃべっているのが聞こえてきた。

待てよ・・・。

騎士団長が迎えに来るほど重要な何かがこれから起こるということ?

僕はこれから起こることに不安が大きくなっていくのを感じた。


「失礼します、グランツ王。彼らを連れてまいりました」


僕らは王の前に横一列に並び片膝をついた。


『御召喚いただき光栄でございます』


皆が声をそろえて一斉に言ったが、僕はそんなルールを聞いていなかったので何も言えなかった。


「うむ、よく来てくれた。今日君たちを呼んだのは他でもない。君たちにある任務に就いてほしいのだ。まあ楽にして聞いてくれ。君たちは今我々王都、引いては人間界がどのような状況に置かれているかわかっているかな?そう我々は今、魔族と戦っている。まあ、一部魔物達と共存している村もあるようだが・・・」


そういうとグランツ王はちらっとこちらを見た気がした。


「とにかく、今我々は魔族と均衡状態にあるわけだ。そこで皆の知っている通り、特に勇者とその仲間たちが、敵の王である魔王を倒しに旅をしているわけだ。しかし、その旅も簡単なものではない。なんせ森を超え、山を越え、川を越え。とてつもない道なき道を行くわけだ。それに彼らを歓迎する町はあるが、まったく町がない場合もある。そこで君たちにはその勇者達とともに冒険をし、食事を作り、荷物を持ち、つまり手助けをしてほしい」


周りがざわつくのを感じる。

無理もない。僕もびっくりしている。いや、びっくりするなんてものじゃない。

勇者様達と冒険を共にするってこと?冒険の手助け?

訳が分からず今にも体が倒れそうになり、頭が真っ白になった。


「まあまあ、皆がざわつくのもわかる。突然、勇者達と冒険しろなんて言われても出来る訳がない。皆がそう思っているだろう。だが、君たちに戦えと言っているわけではない。魔王の城に突入しろとも言ってはいない。たしかに、多少の危険は伴うかもしれない。しかし、たいていの危険は勇者達が守ってくれるし、何よりこの仕事を終えれば君たちの望むものを与えよう。君たちはもうすぐ15歳だ。つまりは何か仕事をしなければいけない時期ということだ。その最初の仕事が勇者と冒険だなんて、こんな名誉なことはないと思うが」


いや、危険すぎる。

周りの子たちはどうかわからないが、僕には何も特技がないし戦えもしない。

王は戦わなくてもよいといってはいるがまったく戦わなくていいわけがない。

どうするべきか・・・。

僕が迷っていると、


「私は行きます!」


サクラが突然立ち上がり手を挙げた。

それにつられてか、他の子たちも一斉に手を挙げ始めた。

さっき騎士団長に興奮していた彼も意気揚々と手を挙げている。

どうやら挙げていないのは僕だけのようだ。

しかし、ふとお父様とお母様との旅立ちの直前のやりとりが頭に流れてきた。

そして僕を見送り期待に満ち溢れた顔と絶望するものの顔。

そうか、僕がここで名誉を手にすれば村のみんなも認めてもらえるかもしれない。

そう考え結論を出すよりも先に僕は立ち上がり手を挙げていた。


「どうやら、皆行ってくれるようだな。頼んだぞ」


こうして僕が勇者様達と一緒に旅をすることが決定した。





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