35話 取り巻く異変
俺は赤石と青石を奪うためにブルートから遣わされた
ならば俺の取るべき行動は一つ。そう、思っていたが、それだけではないのかもしれない。
胸の中に居座り続ける不快な物を取り除きつつ、全てを手に入れる方法。
実現するためには兎にも角にもあいつにもう一度会うことが必要だ。
決意を固めて間もなく、午後を知らせる鐘の音がなった。教会でキャンディッドと出くわしたあの日の夜、俺の部屋に一枚の手紙が届けられてたのだ。
『任務の件については、シルトパットに補佐を頼むとのこと承知しました。ただ、彼は色々と忙しいでしょうから、引き続き私も協力します。
彼は3日前から王都に潜伏しているようです。隙を見て、なるべく早く会いに行った方が良いですよ』
あいつがゴッシェにうまくいってくれたのか、手紙には俺を怪しんでいる様子が見られない。安堵のため息を吐きつつ、助言通り王都に向かうことを最優先事項に据えた。
会の準備で修道院に縛り付けられていたが、この午後からの俺の仕事はキャンディッドの護衛。姫から直接暇を出されたのだとしたら、大手を振って抜け出せる……という算段だったのだが、あいつの部屋をノックしても返事がない。
気配はする。留守というわけではなさそうだが……
ふと足元に目を落としギョッとする。扉の隙間から赤い光が漏れ出ていたからだ。
間髪入れずに扉を開ける。だが、すぐに光は止み、侵入音で飛び起きたキャンディッドが胸に手を翳す姿だけがあった。
「……ノックぐらいしてください」
「したが。まさかこの真昼間に寝てるとは思ってもいなかったんだよ」
それよりもあの光の理由を問いただそうと口を開きかけた時、また赤い光が視界にちらついた。出どころはあいつのネックレスではなく瞳……瞬間、オッドアイのはずのあいつの目がどちらも赤く染まっていた。気が、したのだが……
「エスティー。どうしたのですか」
瞬きの間に、まつ毛の長い目は固く固く閉じられていた。
(今の……なんだ)
この真昼間にあいつがあの赤の目を開くわけがないのだ。それなのに、どうしてか、あの光景は現実に起きたことのように思える。それに、おかしなことはこれだけではない。
「お前こそどうしたんだ。その汗」
額に張り付いた前髪もブロンドの長髪から落ちる雫も、そもそも昼に寝ていたという状況が普段のキャンディッドではありえない隙だらけの姿だった。加えて呼吸が乱れている様子も見受けられる。
「疲れが出てきたんだと思います……もう少し休みます。暇を出した方があなたも都合がいいのでしょう?」
「それは、そうなんだが……」
俺の狙いを見透かしつつ、ベッドのそばの椅子に腰かけそういったあいつは、いつになく弱っているような気がして、このまま出ていくのは憚られた。
「~っ……なんか買ってきてやる。何がいい」
「は」
「……やっぱいい!」
何でこんなこと言ったのかと後悔したと同時に飛んできた、あいつの聞いたことない声から逃げるように踵返し、足早に部屋を去る。
「卵と肉でも」
逃げる背にかすかに聞こえたそのリクエストに笑みが混じっていたような気がして
「ったく……聖女様の風上にも置けねぇな」
ほんの少し、自分の行動が間違ってなかったと思えた。
────────────────────
エスティーが修道院を出ていきすぐに、白騎士コリンが焦った様子で帰ってきた。
「皆の者!席に着け!直ちにだ!」
いつもより鋭い声が修道院の末端にまで届き、続々と修道士たちが集まってくる。
「国王側近グイーダ卿より賜った書状を読み上げる!5日後に行われる太聖会にブルート公国ブルート公爵家3代目当主ルチル・ブルート公爵が参加することが決定した!繰り返す!」
知らせを聞き、惑うもの、パニックに陥るものがほとんどであったが、年配の修道士たちは険しい顔をして互いに視線を送りあっていた。
太聖会。現王家サンティエ家の祖であったラピス7世の一族しか参加を許されない集いに、ブルート公爵家がその資格を持っていることを重々承知していたからだろうか。
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