第38話 信長の娘の同情(次回、最終話)

信康は廃嫡せず秀忠の母が家康の正室でない以上、信康の正室である五徳だからこそ日本の未来を託すのは亡き信康や瀬名の家族も賛成だろう。それでも将軍家が徳川宗家を継がないと、対面的にも権威儀礼的にも問題があった。

幕府は、大御所を全く理解していなかった。そこで将軍秀忠は理解不能な五徳の徳川宗家相続の遺言だけを告げ、相続を放棄してほしいと手紙を書いた。

五徳は、義父家康の切腹を非常に驚いた。そしてここまで亡き夫信康のことを想っていてくれていたのかとうれしく思った。

実際に彼女は、義父家康を恨めしく思っていた。自分が書いた手紙のために夫が殺されたので、一番自分が悪いとは理解している。

彼女は、自分を責め出家して夫の菩提を弔い続ける生涯を送っていた。あの事件は、父信長の策略で引き起こされ、家康は巻き込まれただけである。

最後に信康の切腹を命じたのは、他でもない家康であった。五徳は、理屈ではわかっていたが切腹を命じた家康を残念に思っていたのだ。

今回家康が切腹したことで、義父も自分同様信康を殺害したことに心を傷めていたことを知った。しかも自分が命じなければならなかったことを、さぞ辛かったことと同情した。

五徳は、夫信康を愛した人がまた一人亡くなったことを寂しく悲しく思うようになった。五徳と家康は避けあってはいたが、辛さを共有し互いに心の支えになっていたのだ。五徳は、義父を見直し家康を立派な父親だったと感心した。義父家康は、息子を自分の不始末で殺さざるをえなかったのだと。

五徳は結局家康、瀬名、信康の三人の親子を殺してしまった。

彼女には、徳川家宗家を継ぐ資格はない。そう思った彼女は、丁重にその申し出を断った

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