第27話 問答無用
築山殿は、全ての罪を背負って自分が処刑されても信康だけは助けようと考えていた。
「お会いして話せば家康殿はきっと信康を助けてくださる」
築山殿は、祈る思いでそう呟いた。自分の手籠から思いのよらぬ密書が発見され、そのために共犯の罪に問われた信康がいま遠州の二俣城に幽閉されていることや、自分たちをおそるおそる罠にはめた者への怒りの一方で、謀り事の真の恐ろしさを知らない者の甘さがまだ妥協の余地は残されているという気持ちにつながっていた。そもそも、もし事実武田氏に内通していたとしたらそのような重大な密書をその気になればだれでも覗くことのできる手籠などにいれておくわけがない。また自分が家康、信長の殺害を企てていないことなど誰もがわかっているはずである。家康殿も、当然わかってくださっていると信じていた。
家康夫婦は、浜松城での対面を心待ちしていた。しかし三河衆は、家康の築山殿を処分するという言質に過剰反応した。処分するなら、家康と会う前でもいいのではないか。三河武士は、家康の許可もとらずに築山殿殺害の用意をした。野中三五郎重政と岡本平右衛門時仲に築山殿の殺害を石川太郎左衛門義房に検使を命じ、その日のうちに出立させた。
この日築山殿は、浜松の目前まで進んでいた。しかし、佐鳴湖の東北岸小籔というところでいきなり問答無用に彼らに殺された。いきなりの事で、付き従ってきた侍女は仰天した。目の前の惨劇に動転し、生きた心地もなかったろう。彼女らは、ぎっしりと灌木や笹が生い茂っていたけものみちを必死に逃げた。山を歩けるような着物でなかった彼女らは、西も東も知らぬ場所をあてもなくさ迷った。道にまで身の丈ほどの草が生えている心細い道を 何時間も歩き、やっと道らしい道をみつけ侍女らはやっとほっと安堵のため息をついた。
しかし、侍が道で待ち構えていた。そして侍女らをみつけるや否やばっさり殺された。
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