第21話 共謀
信長は、忠次に見せた手紙を十ヵ条まで読み上げたところで「まこと」と訊いた。忠次は、この時点で罠に嵌められたと気づいた。もし信長の娘が書いた手紙を嘘だといえば信長に対して無礼である。しかも、彼はすでに信長の密書を受け取っていた。共謀を主人にばらすといわれれば我が身は破滅する。
忠次は、築山殿母子のためになんら弁明することもなく
「すべてまことでござる」
と答えた。忠次の頭は真っ白になり、これからどうするか訳がわからなくなっていた。その様子を見た信長は、たたみかけるように忠次に命令した。
「築山、信康の両名は織田家に対して謀叛のきざしがある。二人を処分すべし。これを家康に伝えよ」
「ははぁ!承けたまわりました」
忠次は、驚きで震えが止まらなかった。現実が、信じられない。しかし、すでに自分ではどうすることもできなかった。この出来事を家康様に報告することしかできない。彼は、殿の気持ちを考えると逃げたいと本気で考えた。
しかし、自分が逃げても話は進まない。ますます話がこじれ徳川家が苦しくなり、酒井家が不利になるだけである。しかしそもそもこの手紙は父と娘の私的な手紙であった。しかも、当時は大名どうしの私的な話は家臣である酒井忠次に関係のない話であった。酒井忠次が、相互の意思疏通や連絡もなくいきなり直接間にはいることには違和感があった。
信長は私的な手紙を公的とし、公的な使いの他家の家臣を部下に命令するように扱うという力業でこの決断を下した。忠次は、あきらめて家康に報告するしかなかった。
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