第18話 血判付きの誓書
当時多くの戦国大名は、たくさんの側室をかかえていた。信康の母築山殿は、信康のために美しい姫を用意した。彼女は信康好みであり、ちょくちょく築山殿の屋敷に泊まるようになった。
それに激怒したのは、徳姫であった。毎日自分の元に帰ってきた夫が、たびたび外泊するようになったからだ。しかも築山殿が、わざわざ泊まる時には自分の所に泊まるので安心するようにと手紙を送ってきたのだ。姑からこう言われれば、嫁は体面では何もいえない。男の子を産んでいなければ、なおさらだった。
しかし、彼女は黙るほどおとなしい性格でなかった。父信長に、そのことを手紙に送った。尊敬する義父から叱責の手紙をもらえば、夫も慎むだろうと考えたからだった。
だが信長は、この手紙では動かなかった。逆に彼は娘に、これくらいは許してやれという内容の手紙を送り返した。実は信長は、この程度の内容では信康を失脚させられない。もう少し過激な内容の手紙が欲しくて娘を挑発していたのだ。この思惑は、的中した。
徳姫は、夫と姑をこらしめてやろうとますます過激で全く事実無根のことまで書きはじめた。作戦が上手くいった信長は、次の段階に策を進めることにした。
反信康派の酒井忠次に、密書を出した。密書を受け取った酒井は、それほどのこととは思わなかった。そして酒井の家の為、また徳川家だけに三河を独占させたくないという対抗心が影にあって、これくらいはいいだろうという気持ちで用意をはじめた。
このようにして、準備が整った。そして事件がおきた。
ある日、築山殿の留守中に侍女のお琴が築山殿の手籠を開けて見たところ、あろうことに敵方の武田勝頼から築山殿に宛てた血判付きの誓書を発見した。内容は、申し合わせ通り謀ごとをふまえて、信長と家康を討ち取ったなら家康の所領はむろん信長の所領のうち望みの一ヵ国を与える。
また築山殿を小山田兵衛高重なる大将の妻として信康とともに甲州へお迎えする、という驚くべき内容のものだった。
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