第17話  娘から父への手紙 

天正三年信長は長篠で強敵武田を打ち破り、今年は上杉謙信が亡くなった。すでに国内に信長の敵はいなくなり、いづれ日本は織田家のものとなるだろう。

しかし、その後のことが気になりだした。

信長の嫡男信忠は、凡庸だ。だがそれは、問題ではない。有効な政治体制を確率させ、それを守る優秀な部下さえいれば大丈夫だ。

しかし、それを守れない野心家がその雰囲気を潰そうと企めば、問題が起こる可能性がでてくる。信長の長女徳姫は、勝ち気で一番自分に似ているように思える。娘婿の信康も、自分の真似をする向上心が強い人物だ。二人が組めば、まずいことになりやしないか。

まだ戦国の時代は終わっておらず、戦国の気風は残っていた。 彼は、身内どおしの争いで家が滅びるのを多くみてきた。というより彼は数々の敵を身内を攻略利用して滅ぼしてきたのだ。身内が一番の敵であることは、今までの経験で身をもって体験している。

彼は、信康のまわりを密かに調べるよう内々に指示をだした。そのことは五徳にも知らせず、五徳には生活のことを手紙によこすようにだけ書き送った。五徳は、無邪気に父が自分たちに関心をもってくれていると好意的に判断し、手紙を送り続けた。 

信康の直栽が停止すると、彼と三河武士の間はますます縁遠くなった。変わって彼の周りには、後見の石川数正や元傅役の平岩新吉、三奉行である天野康影が近侍するようになった。彼ら三人は、駿府人質時代から三河よりついていた侍で、信康にとって最も信頼している家来だった。三人も信康をもりたてようと必死に働き、信康も家臣と友好的に接して徐々にではあったが打ち解けてきた。そして信康は少しでも三河のためになろうと武芸に励み、いくさでは見事な戦功をたて家康をうならせた。

武将として実績を挙げてきた信康ではあったが、一つだけ問題があった。彼には娘が二人いたが、まだ男の子がいなかった。彼はまだ二十歳、まだまだ若い。しかし戦国時代、いつどんなことが起こるかわからない。跡取りは、早くできるにこしたことはない。

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