第13話 三河武士の嫉妬
そのため坂崎は、面目を失い反逆を企てたため坂崎は切腹し、お家は断絶された。坂崎が武士の面目を失って憤死したのは、たしかに千姫のわがままと千姫を助けるために家康が口走った言葉のせいだ。
しかしよく考えてみると、これはただ徳川家のわがままとはばかりと言いきれぬところがある。そのほうが面白いから、周囲がかってに妄想して噂をたてた疑いが濃い。
この時坂崎は、五十を過ぎている。成人した息子もおり、千姫をもらうといっても身柄を預かり、安全に助けた褒美を考えてやるということだったらしい。
大体家康の言に応じて、直ちに猛火の中に飛び込んだというのからあやしい。家康が千姫を助けたら・・・伝々といったのは事実だが、坂崎が千姫を家康のところに連れてきたのは偶然のなりゆきに過ぎなかった。たまたま、もとからの知り合いの大阪方の武将、堀内氏久が千姫を護衛して落ちるところに行き合い千姫を託しただけなのである。だから坂崎にはそんな深い思い入れもなくそんな大事になるとは思いもしなかった。千姫にしても、たとえ火傷をして醜い顔になってなくともおじいの坂崎の家にいくのはまっぴらである。坂崎も、そんなことは迷惑なだけである。坂崎にとっては、迷惑なだけで褒美さえいただければよかった。 もちろん、褒美をもらった坂崎は満足した。
しかし、周囲は面白くない。家康父子の困惑は面白い見ものであったし、火傷してまで千姫を助け褒美をもらった坂崎への強い妬みもある。しかも三河武士は、大阪の陣でたいした働きができなかった悔しさもある。彼らは、自分たちのふがいない働きぶりを隠すためにも坂崎を煽りたてた。
陰口は、千姫が本多忠刻に嫁ぐことになって頂点に達した。家康はすでに死んでいるにも関わらず、約束は約束でみんな知っているのだ。それを反古にされて平気なのか、褒美さえもらえればいいのか、それで男が立つのか、侍といえるのかとよってたかって坂崎をいじめた。追いつめられた坂崎が反逆したのは千姫のせいではなく、むしろ周囲の侍社会の陰湿ないじめのせいであった。
正義感の強い信康は、こんな村社会的な三河武士に強い嫌悪感をいだいていた。
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