第10話 於大の方
於大は、その功績をひっさげて家康に迎えられて岡崎二の丸に入った。
彼女は、その時岡崎に縁もゆかりもない夫の久松俊勝と三人の子供も連れてきた。於大の夫と子供の四人の岡崎での立場は於大の付人程度で岡崎衆に交われない。於大は、彼らの立場を上げようと子供の一人を人質にさしだして実績をつくり。相応の居場所と威厳を保っていた。
その於大には、今川を憎む大きな理由があった。我が子家康を今川の人質に取られ、松平の岡崎の領地を支配したからというのではない。彼女の再婚相手との間にもうけた次男康俊が、今川氏真のもとへ人質に出したところ永禄十一年武田信玄の駿河進行をうけた今川家臣が内通して康俊を信玄に差し出した。康俊はその後、甲斐を脱出して雪中突発し岡崎への逃亡をはかったのだが、この時凍傷にかかったて両足の指全てを失った。
冷静に考えれば、逃亡したのも問題である。しかし於大の方は、今川の非情のみを憎んでいた。そのため今川一族である瀬名姫と於大の方には嫁姑だけの問題だけでなく実家が敵対関係という微妙な問題があり、嫁姑関係が複雑化していた。
しかも於大の方は、おとなしい性格でなく岡崎で積極的に活動し始めた。対して瀬名姫は、お嬢様育ちだった。土臭い岡崎とは水が合わず、少し浮いた存在だった。それでも正室のつとめは、ちゃんとはたしてはいた。
しかし本来守ってくれている実家からの女中がいないなかで、まわりが自分の味方ばかりでないことが問題を大きくしてしまっていた。於大の方は、瀬名姫と同様よそ者であるが主導権をとりたかった。そこで、於大の方は酒井を呼んで提案した。
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