10
この前の虎さんの話を思い出しながら授業を受ける。殺し合いと言っても毎日の様に誰かと、という訳ではなく、長い時間の中で1種また1種という頻度で倒されていくらしい。当然俺は死にたく無いから全力で戦うが、それでも進んで戦いたいとは思えない。そもそも俺には生存競争の意義すらも分からない。
全ての授業が終わり、図書室に行くとアインが居た。アインは俺が5組に配属された後でも度々俺と関わりも持とうとした。そして放課後、お互いに時間が空いていた時は図書室で勉強を教えてくれるのだ。そして今日も俺はアインに勉強を教えて貰うべく此処を訪れた。
「なぁ1つ聞きたいんだけどさ。」
俺は教本の内容をノートに写しながらふとアインに質問した。
「何?」
「何でこうして勉強を教えてくれるんだ?俺としては有り難いけど、お忙しそうな王女サマが男爵家次男に構ってくれる理由がいまいち分からないゆだけど……。」
「それはね、私の未来の為よ。」
「未来?」
「そう。私、お姉様みたいな将来立派な人間に成りたいの。でも多分それは誰かの力を借りないと出来ないと思うの。だから貴方に力を貸してるの。来年にはちゃんと1組に配属されて、私の力になって貰える様に。あのホウ=ウィンチが勧めた人材よ、死ぬ時まで私に力を貸して貰うわよ。」
「それならレイドでも良いだろ。」
「んん…何か違うのよ彼は。何って言えばいいんだろう。これは私の勝手な勘なんだけどね、なんて言うか自分が本気で力に成りたいって思った相手にしか全力で力を貸してはくれない様な気がするのよね。」
「なんだその勘?妙に鋭い様で大雑把な感じがする。」
「これでも結構当たるのよ、私の勘。」
「ふぅん。まぁでも、俺にはアインに力を貸す理由は無いんだがな。」
「何か言ってるの。貴方、今私の貴重な時間を使って勉強を教えて貰っているでしょ。」
「………確かに。でも、これで死ぬ時までって長くないか?」
「なら貴方のクラスの担任に言って、貴方の成績をずっと弄らせれ貰うけれども…」
「…それ、脅迫だよな?」
「で、どうなの?力を貸してくれるの?」
「……………まぁ貸して貰った分くらいは返すよ。」
「そう。じゃっほら今度はこっちを勉強しましょう。」
そうして俺は、2時間程アインに勉強を教えて貰った。
そして俺は今、再び図書室に居た。理由は簡単、ただの忘れ物だ。しかし俺は図書室の隅で今にも発狂しそうな様子で教本を睨んでいる1人の人物を見つけた。
「おいレイド、こんな所で何やってんだ?」
「………………………。」
「おい、おいレイド!」
「…ん?あぁロアンか、なんか様か?」
「いいや、ただ随分と変な顔をした不審者が居たから声を掛けただけだよ。」
「誰が不審者だ!」
「それで、何してたの?」
「見ての通りだよ。勉強、割りとガチで置いてかれそうなんだ。」
「1組も大変だなぁ。」
「入れた事は普通に嬉しいがな。このままずっと1組でいられれば俺の将来は安定だ。」
「だな。でももうすぐ校舎が閉まるし、寮まで帰ろうぜ。」
「…あいよ、今片付ける。」
夕暮れの王都を2人でまったりと歩く、馬車はこいつが用をたしている内に出ていってしまった。
「あっ、そういやどうなんだ?お前の目標。」
「目標?そんなのさっき図書室で…」
「そっちじゃ無くて言ってたろ、性癖ドストライクな美女とお近づきに成るって。」
「……それを聞くか。」
「どうなんだよ今の所は。誰か好い娘居たのか?」
「…駄目なんだ。」
「ん?」
「どうしても見つからないんだ!!!」
「っ何だよ、急に大声だすな。耳が痛い。」
「幸いな事にいい感じの娘は何人も居るんだ。でも、でもな!顔が良くても、スタイルが良くても何かが違うんだ。なんて言うかこう、凛々しいんだけどついつい支えてあげたくなっちゃう感じが足りないんだ、ほとんどの娘に至っては皆無なんだ!!!!」
「お、おう。」
圧が、圧が凄い。
「…すまん、つい熱くなった。」
「いや、いいんだ。…お前も大変なんだな。」
「理解を示してくれるのは有り難いんだが、その同情を通り越した感じの哀れみの目は止めてくれないか。絶妙に傷付く。」
「分かった。けど、まぁめげずに頑張ろうぜ。どれだけ時間が掛かるかも知れないけど、その内きっと出会えるさ。」
「おう、そうだな。」
そんな言葉を交わした瞬間、俺達の前を1台の豪華な馬車が通過した。その中には綺麗な銀髪を携えた1人の美女の横顔があった。年齢は俺達と大して変わらないだろうか。しかしその姿を見たレイドは、不自然に棒立ちになっていた。
「………………おい、ロアン。」
「なんだ?」
「………あの娘だ。」
「は?」
「あの凛々しい顔と、何処か強がっている様で怯え不安がっている様な瞳………つまりはそういう事だ。」
「いや、どういう事だよ。」
「なんだよ、察しが悪いな。一言で言おう。俺は見つけたぞ、性癖ドストライクな美女をな!!!!」
「………あ、そう。」
「リアクションが薄い!もっとこう何かあるだろ!?」
「あぁ、いやそんな興奮して言われても。ていうか見つけたのはいいけど、どうやってお近づきになるつもりだ?」
「そんなの、運命でどうにでも成る!」
さも、当然の様にレイドは言い放った。
しかし運命はこの性癖興奮野郎の思い通りに、直ぐ近くまで訪れていた。
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