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デール山脈の南西に位置し、魔法大国サクメンからガテラ帝国を越えて北西に位置する小国シュノービルで、オレ達は魔王軍と対峙していた。

廃墟とかした旧時代の砦に奴らが拠点を敷いているのを仲間の1人、ザックが突き止めた。

「追い詰めたぞ、ザーザ!」

オレの故郷を燃やした憎き相手にオレは聖剣を向けた。

「っ勇者か!よもやこの場所がバレていようとは…しかし、これはお前を討ち取る最高の好機と見た。」

するとザーザは覚悟を決め、着ていたローブを脱いだ。最早人間とは呼べない強靭な肉体が露になる。十数年に復活した魔王の魔力による影響。オレはこれまでに何度もその様な化け物とかした魔王軍の幹部達と戦ってきた。

「こいつが魔王軍参謀ザーザね。…思ってた以上の魔力よ。皆、気を付けて。」

仲間の1人でサクメン出身の魔法使いのラウナが魔力を練りながら声を上げた。

斥候のザックはもう既に姿を消していた。

「皆さん慎重に…回復はいつでも行けますよ。」

修道師の格好をした補助魔法使い方、ランジェロが後方から援護の準備を終える。その隣にはランジェロの護衛として格闘家のリーシャが構えている。

「………いくぞ!!!」

オレは声を張り上げると直ぐ様「風神の加護」を活かし、疾風を纏ってザーザに接近した。

後ろからランジェロの補助魔法が掛かったのを感じると流れる様に素早く「武神の加護」に乗せて聖剣を振るったが、ザーザの右手に受け止められてしまう。

「甘い!!」

「…まずは一本。」

突如何処からかザックの声が聞こえると、ザーザの左手の腱が的確に切断されていた。

「っ!吹き飛べ。」

ダラリとぶら下がった自分の左手を見たザーザは、風の魔法でオレを吹き飛ばすと回復魔法の準備に入った。

「させないわ。」

その隙を付いてラウナが無数の火の玉をザーザ目掛けて放つ。後ろを一瞥すると、ザックがランジェロの護衛に下がっており。後ろから既にランジェロの補助魔法が掛かったリーシャが此方に駆け出していた。

「私も何本か貰っていくよ。」

回復魔法を断念しラウナの放った火の玉の相殺に入ったザーザ。奴の懐に入り込んだリーシャは奴の胸部を殴り肋骨を数本粉砕すると、奴の顎を蹴り上げた。

「っんぐ!」

「今よ!!」

「分かった!!」

リーシャの合図と共にオレは再び「武神の加護」を纏ってザーザの胴を水平切りで捉えた。

「畳み掛ける!!」

「了解よ!!」

オレは即座に「智神の加護」を用いて魔力を練ると、リーシャが放つ攻撃の合間を見て「雷神の加護」と組み合わせて強力な何条もの電撃を放った。

「舐めるなよガキ共が!」

するとザーザは強く地面を踏みつけると一瞬で大地の魔法を放った。巨大な石の刺が地面から此方目掛けてどんどんと突き出てくる。

ラウナとザックはランジェロを庇う様に、次々と生えてくる石の刺を1つずつ破壊していった。オレは「主神の過去」を纏って地面を殴ると周囲の刺を粉々に粉砕した。

「っしまった!!」

いつの間にかザーザが放っていた巨大な岩石がリーシャに直撃し、背後に在った砦の壁との間で彼女を押し潰した。

「リーシャ!!」

「っリーシャは俺とランジェロに任せて、お前はラウナと一緒にザーザを仕留めろ。」

ザックが壁にめり込んだ岩石を一瞬で粉砕すると、凹んだ壁の窪みで呻き声をあげるリーシャを抱え高速でランジェロの元へ彼女を運んだ。

「そろそろ奥の手を切るか………ぬぉぉぉぉ。」

「っ何か来るぞ。」

「ええ。」

オレは一度ラウナな元まで下がると、ザーザの様子を観察した。

「…魔王様、この力存分に使わさせて貰います。いざ人の心を棄てて見せようぞ。」

その直後、ザーザの体が眩い黒の光に包まれた。そしてその光が収まると奴が元いた場所には一匹の魔獣がいた。

「グルルルル………コロス、ゼンイン。」

「っ速い。」

4足で高速接近する異形の生物の突進を間一髪回避すると、止まる事を知らずランジェロ達の元へ突進し続ける奴の背に「風神の加護」を用いて風の刃で攻撃する。そしてラウナがオレに続く様に、魔法で奴の4歩の足を地面諸々凍らして見せた。

「…貰った。」

するとザックが愛用のダガーで奴の眉間を突き刺した。奴の悲鳴が響きわたる。そしてオレが止めの一撃を決めようとした瞬間、突如聞き慣れない声が上から聞こえた。

「あらあら、ザーザったら死にそうじゃない!?はぁ、しょうがないわね。貴方達悪いけどソイツは回収させて貰うわ。」

上を見上げるとそこには大きな羽根をバタつかせて空中を舞っている1人の美女がいた。

「だ、誰だ!?」

「えぇ私?まぁ教えてあげるわ。こっちだけ貴方達が何者か知ってるていうのもフェアじゃないしね。…魔王が側近の1人フランよ。それじゃあねぇ。」

彼女が指を鳴らすと、ザーザ諸々彼女の姿は無くなっていた。

「…クソ、ザーザを倒し損ねたか。」

「何だったのよ、アイツは?」

「魔王の側近の1人って言ってましたけど、初耳ですね、そんなのが居たとは。…でもまぁ美人でしたね。」

「…確かに。」

「何言ってるのよ!」

復活したリーシャがランジェロとザックの頭を叩いた。

それからオレ達は砦の中を散策し、魔王軍の手掛かりとなるような物を探していた。

「…これ。」

「ん?なんだザック?」

「何よこれ………手紙?」

砦の3階に位置する将軍様の職務室に入った時、机の上に整理された大量の手紙にザックが気が付いた。そしてそれは…

「なぁこれって。」

「…全部サクメンからだわ。」

全て、ラウナの故郷であるサクメンから届いた物だった。

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