7
ホウ兄に騙されて5組に配属されてから、2週間が経とうとしていた。未だに俺はホウ兄に許してはいない、いずれシバく。
(器が小さいのう。)
座学はサッパリで、魔法が使えない俺はダラダラと学生生活を送っていた。唯一楽しめそうな武官志望用の訓練も2年生に成ってからなので、どうもやる気が出ない。教卓では、教師が大して興味の湧かない経済の話をしていた。
この5組はほとんどが俺の様な男爵家出身の生徒である。例外としては数名の子爵家出身の生徒とセルナがいるくらい。合計50名近くのクラスだ。それに比べ1組は16名しか居ないらしい。人数だけで見ても男爵家出身ながら1組への配属を獲得したレイドの凄さを感じる。
あいつ授業着いて行けてるのかな。
そんな他愛もない事を考えていると、時間ばかりが過ぎって行った。
何処かやる瀬無さを感じながら、大してやる事も無く放課後に王都を散歩する。いつもはアインかホウ兄と兄貴辺りに付き合わされるのだが、今日は珍しく誰も声を掛けて来なかった。何処もかしこも煉瓦や石で舗装されていて、俺が生まれ育った田舎の男爵領との違いをヒシヒシと感じる。今頃馬車に乗って帰った学生達は寮に着いた頃だろう。随分と長い間歩いている。俺は休憩がてら丁度歩いていた人気の無い路地の飲食店に入ろうし、ドアノブに手を伸ばした瞬間だった。突然虎さんが語り掛けてきた。
(っ!伏せろ!!)
「えっ…………なっ!」
突如先程まで俺の頭が在った位置を何かが物凄い速さで引き裂いた。
「ちっ、外ましたか。」
店の隣で舌打ちをした男を見ると何やら腰の辺りに蠢く細長い物体が目に入った。
「な、なんだよ!いきなり。危ねぇじゃねぇか!?」
「うるさいですね。済みませんが貴方、大人しく死んで頂けないでしょうか?」
「は?何言って…っ!」
気付いた時は男から伸びた細長い物体が俺の脇腹を掠めていた。
「…まだ思い通りの動きとは言えませんね。」
「一体何の真似だよ。っ痛ってぇなぁ………あれ?」
突如視界が歪み、少しずつだが全身の力が抜けて行く。
(…毒持ちの黄色い尾、アカエイか。「エイ」如きが私に楯突くとはな。)
虎さんなんて。
(いいや、何でもない。しかしもう始まってしまうとはな。……ロアン、電流で全身を刺激しろ、無理やりでも体を動かせ!さもないと死ぬぞ。)
は?…死ぬって、どういう事だよ。
(良いから早く、聞きたい事は後で幾らでも教えてやる。)
っ分かったよ。
俺は虎さんの言われた通り、全身に感覚が麻痺する程の電流を流した。
「…雷、電気鯰や白虎辺りでしょうか。」
(取り敢えず戦え。戦闘不能になる位に感電させてやればいい。)
いや、取り敢えず戦えって。…あぁもう、やればいいんでしょ!やれば!!
俺は右手に電力を溜めると、そのまま男に向かって走り出した。
「貴方もやる気に成ってくれた様で嬉しいですよ。近付いて来てくれるお陰で仕留めやすい。」
足により強力な電流を送ると、俺は男が振り回す尾を掻い潜りながらほんの数秒で男の後ろに回り込んだ。
「っ疾…」
「貰った。」
男の背中に右手で触れると、男はあまりに強力な電流に悲鳴を上げた。そして右手に溜めた電力を放電すると男の心音が止まった。
「っやりすぎた!」
即座に電力を溜め蘇生を試みようとした時、虎さんが再び語り出した。
(それよりも注意しろ、恐らく来おるぞ!)
え、来るって何が。
(出た!)
その瞬間、男の体から半透明の小さな光の粒の様な物が出現した。
(それを掴め。)
お、おう。
虎さんに言われた通り、空中庭園を浮かび始めたその粒を右手で掴んだ。
その直後、突然表れた違和感に全身を苛まれ気付いた時には俺はだらしなく路上で吐いていた。
(大丈夫か!)
あ、あぁなんとか。
段々と冴えていた脳で未だノーサインを出す中、俺は電力をもう一度右手に溜めた。
(生き返らせるのか?)
あぁ、そりゃな。ていうか虎さん。ちゃんと説明して貰うからな。
電力を放出し、男の心臓が動き出したのを確認すると俺は寮に帰りながら虎さんに聞きたい事を聞き始めた。
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