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「あのレイドさん。」

「は、はい!なんでしょう、アインガーナ様。」

この度目出度く配属された1組の教室で、いきなり自分よりも圧倒的に身分の高い御方に声を掛けられ、返事が少し裏返ってしまう。

「ロアンが見当たらないのですが、彼がどこにいるのかご存知ありませんか?」

「あ、あぁ……えーと、ですね、誠に申し上げ難いのですが…その…。」

「はい。」

(早く言っちまえよ。)

「あの馬鹿、5組に行きました。」

「………………え?」

(おい!今馬鹿って言ったか!?オレの前でその言葉を使うなって何度言えば…)





「はぁ。」

兄貴達の教室から戻って自分の教室の自分の席に着くと、自然とため息が出た。

(いや、これに関しては騙されたお主が悪かろう。)

普段は寝てばかりいる虎さんが珍しく語り掛けてくる。昔はこの声が自分にした聞こえない事を知らずに随分と混乱した記憶がある。

「5組かぁ、アインになんて言おう…。」

そう物思いに耽りながら、教室内をぼんやりと眺めていると、一際目立つ一人の女子生徒に目が着く。生まれて初めて見る黒髪黒眼についつい色眼鏡を向けてしまう。

(大方、遥か遠くの地から来たのじゃろう。)

ふぅん。虎さん偉く長い間封印されてたのに物知りだな。

(まぁな。封印されてた間、私の子孫らの記憶を見ていたからな。)

子孫って、前々から気になってたけど虎さんって一体何物なの?

(まぁ、もう直話す時が来るはずじゃ。)

その返答に若干の不満を抱きつつも、これ以上は決して教えてはくれないだろうと踏んだ俺は、なんとなくで例の遠くから来たらしい女子生徒に声を掛けた。

「なぁ、あんた。」

「…え、私ですか?」

「そうそう、初めて見る髪色だったからちょっと気になって。」

「そうですか。やはり貴方も気になりますか、この髪。変ですもんね。」

その顔が俯き掛けたのを見て、俺は慌てて訂正した。

「え、いやいや全然変じゃないって!」

「本当ですか、有り難う御座います。この国に来てからはずっと奇異の目で見られていたものなので。」

「そっか、この国に来てからって言ってたけど何処から来たの?」

「遠い東北の地域からです。2年生の所にも1人そこ出身の先輩がいるらしいのですが、どうにもその人の噂は悪いものばかりでして。」

「へぇそうなんだ。俺はロアン。アンタは?」

「セルナです。」

「そっか、宜しくな。」

「ええ、宜しくお願いします。」

それからしばらく俺はセルナと雑談し、それが終わると授業が始まるまでクラスの生徒達に顔合わせ程度に挨拶して回った。





そして時は流れ放課後、俺は…

「ねぇロアン、貴方ホウ先輩にかなり言い感じに紹介されてたはずよね?優秀って。それなのに5組ってどういう事?私、貴方にとっても期待してたのよ。それに貴方、英雄になると言っていたわよね?英雄になると。本当にそんなこんな英雄でなれると思っているのかしら?ねぇ思っているの?」

アインから熱烈なお説教を受けていた。

チラリと横を一瞥すると。遠くでホウ兄がまたもやミューゼさんに怒られてた。

「ねぇロアン、ロアン!聞いてるの?」

「え?………あっはい、聞いてます。」

「じゃ答えて。本当に英雄なれると思ってるわけ?」

「……………うーん、なぁアイン1つ聞いても良いか?」

「何よ?」

「英雄ってどうすればなれると思う?」

「は?何よこれ、そんなの自分で考えなさいよ。」

「まぁそう言わず、誰かの意見を参考にするのも大切だろ?」

「う、うぅんそうねぇ……誰からも認められる事かしら。」

「なるほどなるほど。」

昔父さんには、誰よりも強くなれと言われた。そして今、アインには誰からも認められるよう言われた。

「…………………やっぱ、難しいんだな。」

「何、諦めるの?」

「全然、そう言う意味で言ったんじゃ無いって。」





俺は1人、とある山奥を訪れていた。

(もう少し行った先だ。)

そんな声が頭の中だけに届いて、俺はその言葉に従った。俺自身は一般的な感覚しか持ち合わせていないため、こいつに頼るしかないのだ。

(もう直見えるぞ…………………見えた。)

「アッアア……アッ…アァァァ……」

呻き声を発するそれは人の形をしていたが、もう人ではなかった。

「こりゃ完全に乗っ取られてんな。まぁ悪いが力は貰ってくぜ。」

(んじゃるか!)

直ぐ様俺は力をフルで解放し駆け上がると、奴の顔を後ろ足で蹴り飛ばした。

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