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「あの人は?」
「えっ昨日の式の最中、全生徒と全教員の前で新入生代表の演説してたでしょ。」
「ホウ兄。俺達二人共、昨日寝坊して入学式参加してないんだ。」
「嘘でしょ?」
「恥ずかしながら真実です。」
「あちゃー。まぁいっか、取り敢えず俺から説明すると、彼女の名前はアインガーナ=サクメン。」
「えっ。」
「サクメン?」
「この国の第2王女様だね。君達と同い年の新入生で凄ーく優秀で凄ーく美人で凄ーく期待されてる人ていうか御方だね。」
「ふーん。あの人が王女サマねぇ、まぁ確かに、遠目で見ても分かる。スゲェ美人。」
「あの人が……………顔良し、胸良し、尻良し。…だけど、だけどなんかタイプじゃないんだ…。」
小声でレイドが震えながら何かを呟いていた。
「うん?レイド君、何か言った?」
「いいえ何も。」
「なぁちょっと話し掛けに行こうぜ。」
「え!?」
「良いね。顔を覚えておいて貰うくらいはしておいた方が良いんじゃない。俺からの紹介なら例え男爵家でも無下には扱ってくれないと思うよ。」
「本当ですか!?先輩の紹介なら…」
「えっ?でもホウ兄も言うて伯爵家でしょ。」
「大丈夫大丈夫、俺って結構凄いんだからな。」
「そうだぞロアン!この人とんでもなく凄いんだぞ。」
「え?いや、俺の方がレイドよりホウ兄の事知ってるはずなんだけど。」
「まぁでも、今は忙しそうだし少し落ち着いたら声を掛けに行こう。俺も少し話したい相手があそこにいるから。
こうして俺達は先程兄貴が起こした混乱が収まるまで数分程待った後に例の王女サマの所へと向かった。
因みに後から聞いた話しだが、混乱を引き起こした兄貴は今日の試験の終了後、数時間にも渡って教師陣の偉い人達から説教を受けたらしい。
「ご機嫌どーもです、アインガーナ様。」
「貴方は?」
ホウ兄が王女サマに声を掛けた瞬間、付き人と思われる女子生徒がホウ兄を睨み付けた。制服の色からしてホウ兄と同じ2年生だ。
「お初にお目にかかり光栄にございます。ウィンチ伯爵家9男にしてミューズの友ホウ=ウィンチでございます。」
ミューズの友という言葉に後ろ女子生徒の目がより険しくなる。
「貴方があの。…どうも初めましてサクメン王国第2王女アインガーナ=サクメンです。以後お見知りおきを。そちらの御二人は?」
「私の友人のロアン=リガードとレイド=モコです。」
「お初にお目にかかります。モコ男爵家長男レイド=モコです。」
男爵家、という言葉を聞いた途端に後ろ女子生徒のホウ兄も睨む目がこれ程かという程に鋭くなった。しかしもはや殺意すら感じれるその視線に対してホウ兄は何らの反応を示さなかった。
「あぁどうも。リガード男爵家次男にして未来の英雄ロアン=リガードです。」
「英雄…ですか?それとリガード男爵家次男とは言いましたがもしかして…」
「ええ、この者はノーシュ=リガードの弟ですよ。」
そうホウ兄が言うと、後ろの女子生徒が般若の様な表情を浮かべたが、ホウ兄はまるで慣れているの様にスルーした。
「二人とも優秀な者ですので知っておいて損は無いと思いますよ。」
「そうですか、お気遣い感謝します。あぁそれと説明し損ねましたが、こちらは私の友人兼付き人のミューゼです。今は制服を着ていますけどね。これでも、私専属のメイドなんですよ。」
紹介されたミューゼさんは直ぐ様真顔に戻り、俺達に綺麗に一礼した。
「ミューゼです。ミューズでは無いのでその男の様なお間違えの無いように。」
そう言ってまたホウ兄を睨み付けた。
「ど、どうも。」
「ロアンさん。私、少し貴方に興味がありますので少々お話にお付き合い頂けますか。」
「あ、あぁ。良いんですけど…そのー、敬称とか敬語止めて貰う事って出来ませんか?王女サマにそんな話し方されると、どうも変にくすぐったいような感じがして。」
「そうですか。ではロアン、少しお話しましょう。ミューゼはホウさんにお話しがあるようなので少しだけお付き合いして頂けませんか?」
「……え、アイン様?」
「え?まぁ宜しいですけど…。」
「……………えぇと。そ、それじゃ少しお言葉に甘えて。」
そう言ってミューゼさんはホウ兄を連れて俺達から少し離れると、直ぐ様鬼の如き形相をしてホウ兄に説教を始めた。その怒声は落ち着いていたが所々で感情が爆発し、早口でホウ兄に何かを説いているのが時々うっすらと聞こえてきた。レイドは空気を読んでか、王女サマに一声かけて、去っていった。
「では、ロアン。」
「は、はい。」
「貴方は私の事をどう思っているのかしら。」
「……へ?」
予想外の質問に言葉が詰まってしまう。
「へじゃ無くて、何か無いの?私への印象。」
「えぇ、うーん……綺麗、かな?」
「あら、ありがとう。」
今1度王女サマの容姿を見やる。少し淡い赤色の髪は腰まで伸び、肌は白く、良く整った顔立ちにはまだ幼さが少し残っているものの、出る所は出て、引く所はしっかりと引いている。ていうか、腕とは腰とか細過ぎだろ。少しでも強く握っただけで折れちましそうなんだが。
「他には無いの。月並み過ぎるわ。」
「そう言われましても……ていうか何でそんな事聞くんです?」
「それは私が、仲良くなりたいって思った人には私をどう思っているのか聞こうって決めているからよ。」
「仲良くなりたい、俺と?」
「そうよ。」
「…こう言っちゃなんですけど、何で?」
「それはあのホウ=ウィンチが私に貴方を紹介したからよ!だってあのホウ=ウィンチよ。」
王女サマは若干いや大分興奮気味に答えた。
「あの男が見込んだ男、そんな優秀な人材深く繋がりを持っておく以外無いでしょ。」
「お、おう。」
一体何者なんだ、ホウ兄って。
「まぁまたお互い1組になった時、仲良くして頂戴。それと敬語は使わなくて良いわ、その方が仲良くなれそうだしね。」
「お、おう。」
「それじゃ宜しくね、ロアン。」
「あぁ王女サマ。」
「…アイン。」
「え?」
「アインって読んで、良い?」
「わ、分かった…アイン。」
名前を呼ぶと王女サマもといアインは笑って見せた。ただで綺麗な顔がより綺麗に写る。
「それじゃあまたね。」
「あ、あぁ。」
そう言ってアインは去っていった。遠くでミューゼさんを呼ぶ声が聞こえた。
夕焼けが西の空に浮かぶ中、俺とレイドは同じ1年生用の馬車に乗って校舎から学生療まで下校していた。なぜ学生療がこれ程校舎と離れているのか、昔は学生療も校舎内に在ったらしい。しかしあの巨大な訓練場を建設した際に邪魔になり、空いていた王都の端のスペースに今の学生療を建てたとの事だ。ホウ兄が言っていた。
「明日の学力試験、不安だな。」
「何言っていんだ?ホウ兄が無回答で提出しても1組は確定してるって言ってたろ。」
「なぁロアン、お前まさか本当に名前だけ書いて出すつもりか?」
「応よ、俺勉強とか眠くなっちゃって何も出来ないから。逆にレイドはやるのかよ。」
「まぁ一応な。この日のためにずっと勉強して来たんだ。全力で挑みたい。」
「そうか。」
そして後日、俺は試験中に日頃の虎さんの如く眠り散らかし、レイドは全力で挑んだ学力試験の結果を踏まえ、全生徒のクラスが発表された。
レイドは自分のクラスを知り、大喜びすると同時に安堵した。そう彼は男爵家でありながらも1組に配属されたのだった。
それに対して俺は青ざめていた。俺の元に届いた通知には、最低最悪の5組の文字が記されていた。
学園に登校し、5組の教室で必要な手続きを終えた俺は直ぐ様走りだした。目標は奴が配属されているであろう2年1組。上級生の教室に着いた俺は教室のドアを開けて奴を見つけると奴に問い質した。
「おい、ホウ兄!」
「ん、ロアンかどうした。」
俺の姿を見ただけで、恐らくホウ兄に知らされたであろう兄貴が爆笑していた。
「嘘着いたのか!?」
「……………あ、バレた?」
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