打明けた思い

「実際、どんなことが見えたりするの?いやじゃ無ければ聞きたいんだけど」


 興味本位きょうみほんいで聞いてくる友人は、今までにも何人かいた。しかし、大抵たいていは、あとで奇異きいな目で見られてしまう。


 説明すればするほど、話がこじれていく。しゃべるだけ損なのだが……。


「新之助は、幽霊とかの話しは信じる方?」


「幽霊というか、人が死んだら、やっぱりその意識は残ると思うから、それがいわゆる魂とか言われるものじゃないかと思ってる。誰でも納得して死んでいくわけじゃないだろうから、無念な思いを残して死んだ人は、幽霊として、人の前に出てくることもあるだろうなって思うよ」


「………」


 新之介は、魂とか霊とかの存在を、理屈でとらえていると思った。それに加え、人の心情も正しく理解していると感じる。

 頭から否定したり、茶化ちゃかしたりはしないだろう。


(俺の周りで起こってること……話してみようかな……)


 久しぶりにそんな気になった。いや、誰かに聞いてほしいという気持ちを、もう抑えきれなくなったのかもしれない。


「新之助、俺の周りで起こってること、話してもいいか?どの程度信じてもらえるかわかんないけど……」


 俺の真剣な表情に、新之介は直ぐに反応した。


「いいよ。俺も聞きたいと思ってたんだ」



 俺たちは駅の改札かいさつに着いていたが、電車に乗るのを止めて、外の自販機で飲み物を買い、近くのベンチに腰掛ける。

 帰宅を急ぐ人たちで、一時的にベンチへ腰掛ける人はいても、すぐに立ち去るので話しの邪魔にはならなかった。

 俺は、せきを切ったように話し始る。


 若月先輩の家に行って、さむらいたちにめった刺しにされたこと。

 霊感が鋭くなりすぎて、未成仏霊たちに、死にそうなくらい追い詰められたこと。

 それを大六だいろくという守護霊が助けてくれたこと。

 ある程度、力をあやれるようになって、悪霊を柱とした結界を家の周り作ったこと。


 殺人事件の容疑者扱いを若月先輩がされてること。

 そのことで警察に、事情聴取をされていたこと。

 昨日、先輩が助けを求めてきて、どさくさに紛れて、彼女と関係を持ったこと。


 気が付けば、入学してから今日までの、ほとんど全てのことを、洗いざらい話していた。新之介は黙って聞いてくれている。


 ―――


「俺の知らないところで、唯人ゆいとはずっと大変だったんだなぁ。はじめて聞くことが多すぎて、なんていうか、整理するのに時間がかかるわ……。ただ一つ言えるのは、若月先輩と一夜を共にしたのは、成り行きだろうけどうらやましいぞ」


「それは……、結局俺は、あの人を傷つけただけなのかもしれない…、でも昨日は、結界の張ってあるところしか、安全な場所は無いと思えたんだ」


「わかってるよ。先輩も、唯人が必死に守ろうとしてるの分かってるから、お前のこと好きなんだと思うよ」


 俺は少し顔が赤くなった。新之介は、話しを正確に理解してくれている…そう思う。


「それはそうと、なあ唯人、若月先輩は本当に、殺人事件とは無関係だと思うか?」


 俺は言葉をつままらせた。


「…無関係…ではないと思う。でも先輩は、人を殺したりはしてないよ。幽霊にめいじたわけでもないと思う。多分、取り憑いている奴等やつらが、勝手に動きだして、若月先輩に害がある人を襲ってるんじゃないかな。」


「…そうだよなあ、そうなるよなあ……。まぁ今日はもう遅くなったし、そろそろ帰らないか?唯人も疲れてるだろ?」


 辺りを見回すと、もう駅周辺は真っ暗で肌寒さを感じる。時計を見ると夜7時を回っていた。


「そうだな。悪かったよ、変な話に付き合わせて。ありがとな、なんかスッキリしたよ」


「ああ、俺もスッキリした」


 一足先ひとあしさきに新之介の電車がホームに入ってくる。


「そうそう、実はさ、俺もこの間、初めて幽霊見たんだぜ」


 突然、思い出したように新之介がしゃべりだした。


「えっ、本当?」


「うん、俺のは唯人みたいに物凄いもんじゃなくてさ、うちの死んだじいちゃんが、夢に出てきたんだ」


「へーー、何か言ってた?」


「それがさ、何か言いたそうなんだけど、よくわかんなかったんだよね。今度俺んちに来てさ、霊視してくれると嬉しいけど」


「うん、わかった。いくよ。でも俺の力、あんまりあてにならないかもしれないけど」


「それでもいいよ。遊びに来いって」


 新之介は電車に乗り込んだ。


「じゃあな、また明日」


「うん、今日はありがと」


 扉が閉まり、電車が動き始める。




 俺は駅のホームから、星の出てきた夜空を見上げた。

 今日は、後藤へ、きちんと説明できた。お父さんのことも許してもらえた。

 新之介にも、自分の現状を全て話すことができてスッキリした気分だ………。


 しかし、一人になると、のど元に引っ掛かった、彼女への思いがこみ上げる。


(若月先輩は、今夜、無事に過ごせるのだろうか……)



 家に着き、両親に「友達に相談事してて遅くなった」と正直なところを話した。

 母ちゃんからは「早く帰ってきなさいよ」と言われる。食事とお風呂をませ、部屋に入った。反射的に付けたテレビから、全国ニュースが流れてくる。


『・・・潟県、新潟市甲区の事故現場からの中継です。この交差点で、突然あちらの黒いワンボックスカーが、車線をはみ出し、下校途中の、小学生の列に突っ込みました。ワンボックスカーを運転していた、43歳男性と12歳と11歳の女子児童は、病院に搬送されましたが意識不明の重体です。また、この事故により、他、重軽傷者3名も病院に搬送されていますが、今のところ命に別状はない模様です。現場は見通しのいい交差点で……』


 子供を巻き込んだ交通事故。自殺目的だろうか?ひどい話だと思いながら眺めている。

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