第5話 遊園地にて(1)

「…普通に考えてシチュエーションがおかしいと思うけど⁉」

「ごめん、昨日の夜カフェの片付け遅くまでやってたし…ー。」


待ち合わせ…って女の子が遅れて「お待たせー…。」とか言ってるもんじゃないの?それなのになんで誘われた側が先に来てるわけ?なんで誘ってる側が遅れてくるわけ?それも…ー


「なんで1時間も遅れるのよー!」

「そんなこと言って1時間も待ってくれたくせに。」

「…違うし。」


ホントは焦って「どうしよう!」ってなって、かれこれ2時間は待ってるし…。2時間(1時間だけど)待たせる奴とかどうなってんの?


「詩織はどこ行きたいの?コーヒーカップとかメリーゴーランドとか…。」

「や、ジェットコースターがいい。」


清二の言葉を遮って指したのは「関東最大級!」とかかれた看板。絶叫系は意外と好きで遊園地に来たら絶対に最初に乗る。


「え?…ジェットコースター…?」

「うん!…文句ある?」


意地悪な笑みを向ける。「う…。」と言葉を失う清二を連れて、ジェットコースターの列に並んだ。


「じゃあ、いってらっしゃーい‼」


数分後…ー。

楽しそうな声のアナウンスと共にガタッと車体が揺れる。


「そういえば…清二元気なくない?」

「…詩織。俺がこの手の乗り物ダメなの知らないでしょ…。」

「え?お、もうすぐ頂上。」

「えっ…ー。」


清二の顔色は明らかに悪かった。サッと血の気も引いている。


「きゃ———————!!!!」


自分の黄色い声。「きゃ」に混じって…「ぎゃ」がきこえたきがするけど…聞かなかったことにしておくか。


「詩織よくあんなの乗れるね。」

「ふふっ…。清二ダサッ…。」

「…うるさい。」


苦笑いしながらパコッと頭を叩いてきた清二を見て私も笑う。

ー…って、私の方が楽しんでない?

いいや、待て待て。私はコイツの口車に乗せられて今こうなったんだ。

浮かれるな、私———!


「あ、ゴーカートあるじゃん。詩織、乗ろうよ。」

「…遠慮しとくわ。無理無理無理無理…。」

「俺の誕生日なんだけど。」

「…ハイ。」


二人乗り用ゴーカート…絶対に無理なヤツじゃん!なぜなら私は…ー

超絶運転音痴なんだから。


「ちょっと清二!アンタ、分かってこんなことやってんでしょ!」

「なんのことー?(棒読み)」

「ぎゃ。」


私が運転させられていた。

外枠のタイヤにぶつかりまくっている。はずっ…。


「ここまで下手だったとはね。」

「…あんま見ないで。」

「…。」

「見ないでよっ。」


じっと見つめてくるので、自分の顔が赤いのが何のせいか分からなくなってきた。

「あっ。」と声をあげた。また、左側のタイヤに衝突したのだ。


「…ほらっ。一緒にやるから。」


後ろからふわっと包み込まれた。

左手の上に清二の手が乗っていて、動かしてくれる。

シートはベンチのようになっていた。だから今、清二と密着している。

後ろ髪に清二の吐息がかかる。

ボッとほっぺが熱くなった。


「…ありがと。」


やばい、気絶する。

                      遊園地編、続く。

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