第4話 タンポポのコーヒーカップ

「…清二。」

「え?里中さん、校門の前に立ってるあのイケメンは誰⁉」

「…私の知り合い。」


教室は、まだ騒がしい。

放課後、部活動にいく準備をするクラスメイトのなか、帰宅部の私は窓の外を見た。

思わず零した彼の名前で、全然喋ったことのないようなクラスメイトに話しかけられる羽目になるとは…。


「神奈、ちょっと先行く。」

「え?ちょっと待ってよ!新しいペンポーチ買いに行くのについてこさせようとしてたのに~!」

「…遠慮しとくわ。」


混んでいる廊下の人をかき分けて、走る。帰宅部だが、陸上部の推薦を受けたこともあるぐらいだ!アイツに女子が集まったら終わり。私が会いに行ったところで白い眼を向けられるだけだ。

やっとのことで、清二にたどり着いた。


「…なんで清二がいるのよ。」

「12月4日。詩織の誕生日のくせに。」

「…だからなんなの。親だってほとんど帰ってこないし。神奈からもらっただけだし。祝われたってあんまり響かないの。」


自分のずんとした黒い気持ちで暗い気持ちになった。誕生日なんて小さい頃から特別な日ではなかったのだから。


「祝わせてよ。俺が祝うのは勝手でしょ。」


清二は私の手に立方体の箱を握らせた。ちょうど、両手で持てるくらいの大きさの。


「リボンよれてる…。って清二が結んだの?不器用なくせに…ー。」


清二はちょっとだけ赤くなった。目をそらして恥ずかしそうな姿はちょっとだけ愛らしい。


「ダメなの?自分で結んだら。」


ちょっと睨むような感じでこちらをみる清二は、迫力がなかった。

そしてハッとする。

なんなの…ちょっとだけかわいいって思っちゃったじゃないの!


「だっダメじゃ…ないけど…。」

「てか詩織は、返事考えてくれたの?俺ばっか必死なんだけど。」


いや、こっちもこっちで必死なんだが。


「も…もうちょっとだけ待ってよ。真面目に返事するから…。」

「ふーん…。じゃあ、またいうこと聞いてよ。」

「…変なことじゃないでしょうね。」

「俺の誕生日に遊園地に行こう。」

「…え?」


自分の部屋で、箱を開けるとタンポポの絵が描かれたコーヒーカップが入っていた。優しいパステルカラーの絵を見つめながら清二の言葉を繰り返す。

『俺ばっか必死なんだけど。』

いちいちアイツの言葉にドキッとしていることは本当に腹立たしい!

そう思いつつ、清二の誕生日の日の予定を確認した。

アイツにほだされる日も近いのかもしれない…。

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