第3話 炎上とカフェエプロン

「えー!詩織あのカフェまた行くのー?」

「…もう1回行こっかなー…程度の気持ちだけど。」

「私はついて行かないからね。炎上してるじゃん。まぁ、いろいろと。」


清二に「話したいことがある。」と言われたのだ。炎上している理由に清二は大いに関わっているようだけど。


「『店員・水無さん、注文を受けに行く人を選んでいる疑惑』とかいう、つまらない炎上してるカフェにわざわざ行くの?」

「別にいーじゃん。店員も人間だし知り合いがいたらオーダー取りに行くでしょ。」


ミーハーな神奈には解らないのだろう、同じ店に2回以上行くということが。

でも、話を聞くぐらいなら、問題ないでしょ…ー。


「あ、詩織。やっと来た。」

「あんまり目立たないで、私に怖い目が向くから。」


清二が人気なせいで、普通に話してたら変に注目を浴びるわけだ。私からしたら、いい迷惑だ。


「ねぇ詩織。ちょっと聞いてほしいことがあるんだよね。」

ずいっと顔を近づけてきてドキッとする。注文して握りしめていた、カフェオレのカップにさらに力が入った。

「そういえば髪のびたね。」


再会したときのように髪の毛に躊躇なく触れてくる清二に、心臓の音が聞こえてしまいそうだった。


「…やめて!」


バシャ。嫌な予感と共に、温かい飲み物で袖が濡れていくことに気付いた。

…うつむき気味の顔をあげると、ちょっと焦ったような清二が見えた。カフェエプロンが、カフェオレで盛大に濡れている。


「わー!ごめんなさい!」


血の気が引いて、大声で謝った。


カフェの裏口は涼しく、清二は怒らずケロッとしていた。


「ごめん、清二…。」

「や…こっちの距離感も確かにおかしかったかもね。」


私の手で盛大に飛んだカフェオレの入ったカップは、運悪く誠二の方向に飛んだ。そのまま、清二の服やカフェエプロンを汚す羽目になってしまった。


「ほんとごめん!なんでも言うこと聞くから許して!」


清二が怒っていないっぽいのはわかってるけど。

罪悪感‼

さすがに何かして返したい気持ちだった。


「…なんでも。」

「うん!あ、叶えられる範囲内で。」

「じゃあ、さっき頼もうとしたことも含めて聞いてね。俺の家に来てくれない?」

「はい…?いいけど?」


「妹の髪の毛の結び方教えてほしくて。こんなの詩織にしか頼めなくて…。」


妹・清羅セイラちゃんのサラサラの髪の毛をいじりながら、真剣に私の手元を見る清二を見た。こういうことには必死なんだ。そう思うと、清二が可愛く見えてきた。


「詩織ちゃん、元気にしてた?」

「うん。清羅ちゃん、もう中学2年生なんだ。清二に髪結んでもらいたいの?」

「ヤダ。お兄ちゃんに髪結んでもらうような年じゃないもん。」


「へえ…。」と悪戯いたずらっぽく清二を見る。妹を溺愛しているとは。弱み

を掴んだような気がしてちょっとだけ意地悪になった。


「ねえ、詩織に言おうとしてたのはもう一つあって…。」

「めっちゃお金かかるのはナシで。」

「俺の彼女になって。」

「は?」


素っ頓狂な声をあげてしまった。なにを言っているんだこの男は。カノジョ?え?恋人ってこと?

これについては、本当に疎いのだ。少女漫画さえほとんど読んだことがないため、恋愛など知ったことじゃない。


「俺、詩織に会ったら言おうと思ってたんだけど。」

「ちょっ…ちょっと待って。叶えられる範囲内って言ったけど?」

「…せめて考えてくれない?俺はあのときからずっと好きだった。」


清羅ちゃんが、ニヤリと笑って振り向いた。そして、小さく耳打ちする。


「…お兄ちゃん、詩織ちゃんに会いたいっていつも言ってたんだよ。お兄ちゃんの幸せのために、考えてくれないかな。」


体温がグッと上がったのが分かった。そして私は、


「え————⁉」


再び素っ頓狂な声をあげた。

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