第2話 過去との対話
私が甘めのカフェオレが好きなのはそれが救いだったからだ。
父母は家にほとんどいない。それも私が小さい頃から。共働きとは、そこまで忙しいものなのだろうか。
孤独、虚無、静寂。すべて敵のようで隣り合わせのところにある。家に帰っても、冷たい料理にラップがかかっているだけだ。ランドセルを置いて、宿題をする。別にリビングから、「ご飯よー。」なんて聞こえてこない。
でも慣れてしまえばなにも怖くない。薄暗い部屋も、消えたりついたりする電気も。
ただ、寂しくなったら隣の家に遊びに行く。
「清二。寂しいから来た。」
「…カフェオレ、作ってあげるよ。」
インターフォンを鳴らさずに、よく家にお邪魔していた。
水無清二。私の幼馴染で、隣の家に住んでいる。休日には家族がいて、清二はいいな、とよく思ったりもした。でも、優しくて温かい家庭だったから、妬みとかいうより、好きな場所だと思っていた。
「甘いのが好きなんだよね。」
「…うん。苦いのはダメだから。」
清二は名前は透き通るように綺麗なのに、いわゆる陰キャだった。常に本を読んでいたし、メガネをかけていた。
事情を聞かずそばに居てくれたのは本当に助かった。それが清二でよかったとも、思っている。
「…おいしい。カフェでバイトできそう。」
「よかった。」
おいしい、とだけしか言えなかったけど。本当は安心感、懐かしい味、しみわたる温かさが、私が作っていた堅い寂しさの甲羅をみるみるうちに溶かしてくれた。
小6の時だった。清二の転校は本当にあっという間で。
温かさを、失ってしまった気がした。
「…清二…?」
不敵に笑う水無さんを疑うように見つめ返す。
「やっと、思い出した?さすがに高校は同じところを狙えると思ってたけど。まさか隣の町の高校に行ってたなんて。」
高身長。メガネもコンタクトになっている。髪の毛も綺麗に切り揃えられている。
そして右手は私の髪の毛に触れていて…ー。
「そ、そうなの?まじでカフェでバイトしてたんだね。転校したから二度と会わないと思ってた。」
すごく距離が近かったことに気付き、ちょっと後ずさる。
「俺は会いたかったけど?」
サラッとそんなことを言ってくれるな。笑った顔はあの頃と変わらないが、どうも「イケメン」という言葉を結びつけると、少しドキリとしてしまう。
いつの間にか普通に会話していたことに気付き、神奈や周りの人を見る。
…気絶?魂が抜けたような人ばかりでこちらとしては普通に怖かった。
「詩織が元気でよかった。」
清二のその言葉には、いろいろな意味がある気がした。
未だ孤独の海をさまよっていると思ったのかもしれない。
単に、久しぶりに会って挨拶のように言った言葉なのかもしれない。
残った甘めのコーヒーは、まだほんのり温かい。
幼馴染との再会は、このようなものだった。
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