コーヒーとミルクの比、5:5で。
@Behappy
第1話 変わらない味
昼休み、友人はメロンパンを頬張りながら話しかけてきた。
「ねえ、詩織。ちょっといいかな?」
「流行には疎いから。」
流行に飛びつくことを生きがいとする友人・神奈の話が始まった。ペンポーチを変えた回数、23回。女子高生向けの店のポイントカートの枚数、57枚。来ている服も、所持品も、流行っているのかどうかさえ分からない。もはや、私が疎いだけなのか、何かの芸術なのかさえも分からないレベルだ。
「冷たいな~詩織は。このカフェ行きたいんだけど。」
かざしてきた神奈のスマホを覗き込む。お洒落なサイト、読みやすい明朝体の文字。
「…カフェオレ…コーヒー…ガトーショコラ…。メニューは普通のカフェとそんなに変わらなくない?」
「最後まで読みなさいよ。口コミを読めば行きたくなるって!」
・イケメン店員のスマイル、マジ惚れた!
・かっこいい店員さんが持ってきてくれたエスプレッソ本当においしかった!
「…ね!行きたくなったでしょ!」
「や…イケメンとか興味ないんだけど。」
「カフェオレ好きだったでしょ⁉とりあえず行こうよ!」
神奈の押しが強いのは昔からである。でもまぁ、そんなところも気に入っている。
今回ばかりはイケメンを拝みに行きたいだけだろうけど。
「はいはい、行けばいいんでしょ、行けば!」
とまあ、今日の放課後行くことになったわけだが。
こんなに平日混むものなのか、と思うレベルの行列がある。+並んでいるのは10代の女性ばかりである。
「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ。」
やっと入れたのは30分以上待たされた後だった。
カランコロン、と小気味よいかわいいベルの音は、いかにもカフェという感じだ。
「ガトーショコラと、アイスコーヒーで。」
「あっ…私はカフェオレを…。」
そそくさと注文する神奈に後れを取りつつ、やはりカフェオレを注文する。
「かしこまりました。」と、綺麗なお姉さんは一揖した。
「…あ。神奈、ここのカフェオレ、コーヒーとミルクの比は変えられないの?」
「さあ?えっと…『カフェオレはほろ苦く作っております。コーヒー9、ミルク1の比ですので、甘いものと一緒にどうぞ』だって。」
…終わった。苦いものは食べられない(※もちろん飲めない)。ゴーヤとかピーマンとか、見ただけで体調が悪くなりそうだ。
「イケメン店員さんが持ってきてくれないかな♪」
神奈はあの調子だ。その店員さんも期待ばかりされては困るだろうに。問題は、カフェオレが苦いということだ!
「お待たせしました、ガトーショコラとアイスコーヒーです。」
少し年配の人が持ってきたので、神奈は店員さんが去った後、小さく舌打ちした。
「…そしてこちらがカフェオレです。」
その一言で、客の目は持ってきた店員さんに釘付けになった。もちろん、神奈も例外ではない。現実では初めて見た、目がハートマークって。
透き通った綺麗な声、サラサラの髪、そして少し細いが優しそうな瞳。
「イケメン店員、水無さんだ!」
神奈の黄色い声でさらに周りの目は…水無さん?の方へ向く。
絶対にないだろうけど、この水無さん、どこかで会ったことがある気がした。
しかし、そんなことは気にしていられない。カフェオレが苦いと困るのだ。
「あの、このカフェオレって苦いですか?私、苦いのはちょっとダメなんで…。」
「あー…。それなら今一口飲んでみてください。」
促されるまま、温かいマグカップに口をつける。
「…甘い。苦くないです。でも…比は9:1って…。」
「これは、5:5です。まろやかな甘さです。それと…ー。」
ふ、と水無さんは不敵に笑って私の髪にサラ…と触れた。
「詩織は、苦いの飲めなかったでしょ。」
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