第十五話:主戦場
あの後、斥候に出ていた傭兵の報告を受けてすぐに戦場に向かう事になった。
主戦場ではやはり味方が押されているらしく、急いで援護に向かう必要があるらしい。
こちらは俺を含めて二十人しかいないが、真後ろから奇襲をしてやれば敵の陣形も乱れるだろう。
まずは広域魔法で敵を叩き、その後に歩兵部隊でかく乱する。これが恐らくベストだ。
オーガを一撃で仕留めたネフィーの火力なら大打撃を与えることも出来る。
とかまぁ真面目なことを考えてはいるんだけど。
さっきからつい目がネフィーに向いちゃってんだよな。
意識するなって方が無理だろこれ。
普段から超絶可愛いネフィーが今は百倍くらい可愛く見える。
その艶やかな唇に視線が向かい、ゴクリと生唾を飲んだ。
やばいなこれ。あの可愛さだけで魔王を滅ぼせるんじゃないだろうか。
あ、目が合った。
ちょっと顔が赤いのが更に可愛いんだが。
やっべ、頭が沸騰しそうだわ。
「――ジェイドさん、敵軍が見えたっすよ」
おっと、しまった。もうそんなに進んでたのか。
言われてみれば確かに遠くに敵軍の姿が見えるな。
ていうか普通に着いて来てるけど、ミレイって戦えるか?
「あ、その顔はまた疑ってるっすね? 普通の魔物くらいならこのハンマーで一撃っすよ!」
え、その背負ってる奴、玩具じゃなくて本物なの?
長さ三メートル、先端は幅一メールくらいあるけど。
そんなくそデカい物、小さいミレイが扱える訳が……あ、はい、すみませんでした。
軽々と振り回してますね。余裕でぶんぶんしてますね。
あ、地面に置いただけで小石が割れた。
ふむ、凄いな。
まぁ俺としては風が巻き起こって胸元がチラチラしてる方が気になったけど。
「そうか。無理はするなよ」
「分かったっす!」
うん、元気があってよろしい。
ただジャンプするならもう少し俺の近くでやってくれないかね。
あとちょいで中が見えそうなんだよな。
はっ!? いかん、俺にはネフリティスっていう天使がいるじゃないか!
本能のままにエロを追い求めるのは……
……いや、まぁ、うん。そこはバレなきゃ良しということにしておこう。
さってと。気を取り直して、戦争しますかねー。
「ネフィー、頼めるか?」
「う、うむ。我に任せるが良い!」
こほんと一つ咳払いしてネフィーが前に出る。
そして両手を前にかざすと、すっと顔付きが変わった。
天使のような微笑みから、凛とした戦乙女のような表情へ。
「とっておきをくれてやろう! 皆の者、下がっておれよ!」
膨大な魔力が渦巻き、ネフィーの手の先に巨大な魔法陣がいくつも浮かび上がる。
極彩色に輝く魔法陣は次々と数を増やしていき、やがて前方一面を埋め尽くしてしまった。
前回は見ることができなかったが、ネフィーの魔法はこんな感じなのか。
使用者に似て、とても綺麗だ。
魔法陣の光に照らされたネフィーがにぃ、と笑う。
「喰らうが良い! 極大爆炎魔法!」
キュイン、と魔力の光が一点に集中し、射出。
放たれた紅蓮の光弾が敵軍に向かって真っすぐ飛んでいき、着弾。
同時に、世界が吹き飛んだ。
敵軍はおろか周囲の木々や地面すら巻き込んだ爆発。
その威力は凄まじく、一瞬で平地に巨大な穴が穿たれる。
うっわぁ、えげつねぇ。
敵軍の半分が消し飛んだぞ、おい。
「まあまあかの。貴様殿、後は任せても良いか?」
「さすがだな。上出来だ」
ドヤ顔で胸を張るネフィーの谷間をガン見した後、後ろに居る味方に目を向ける。
「剣聖様! 俺らが先に行きます!」
「行くぞ野郎ども! 突撃だ!」
「おうッ!」
勇ましく叫びながら駆けていく彼らを見て、その最後尾に着いて走る。
この場所なら一番安全だろう。
みんなには悪いけど俺は死ぬわけにはいかない。
だってこの戦争が終わったら初彼女ができるんだからな!
先頭の連中が敵陣を突破していくのを見届けていると、なんか血塗れになったおっさんがこっちに走ってくるのが見えた。
鎧を見た感じ、どうやら味方のようだ。
「剣聖殿ォ!」
「その声、ネレイド将軍か!?」
「いかにも! いや、凄まじい一撃でしたな!」
えぇと、うん。豪快に笑いながら敵を斬ってるのはちょっと怖いんだが。
頼もしいっちゃ頼もしいんだけど、あまり近くに来ないで欲しい。
てか強ぇなこの人。敵が訓練用の藁人形みたいだわ。
「正面に敵部隊が集まっている位置があります! いざ、蹴散らしましょうぞ!」
はぁ? いやいや、なんでそんな危なそうなところに行かなきゃならないんだよ。
俺ぜったい嫌だよ。
「ネレイド将軍、俺は他にやることがある」
「なんと!? それは敵兵を討つ以上に重要なことなのですか!?」
「あぁ、俺にしか出来ない事だ。そちらは任せても良いか?」
「承知! ではこの俺にお任せください!」
よっしゃ、危ない役割を押し付けることができた。
後は適当に森の中とかに隠れて戦争が終わるのを待とう。
この勢いならまず勝てるはずだし。
よし、そうと決まれば全力ダッシュだ!
※
森の中を歩くこと五分ほど。
遠くから金属がぶつかり合う音や男たちの怒号が聞こえてくるが、森の中は静かなものだ。
虫や鳥の声が聞こえてくるくらいで、平穏そのもの。
ついさっき毒蛇を見掛けたものの、それ以外は何の危険も無い。
その毒蛇もちゃんと捕まえて袋に入れてるし、これで何も問題ないはずだ。
ここに居れば無事に過ごすことが出来るだろう。
そんでもって、その後は……うへへへ。
いやぁ、生きてて良かったわ。まさか俺にも春が訪れるなんてなぁ。
ちょっとイメージトレーニングでも……あれ?
何してんだあいつら。こんな森の中になんで敵軍の兵士が居るんだよ。
とっさに木の陰に隠れて様子をうかがってみる。
人数はざっと三人。となればこれは、たぶんお偉いさんを逃がしてるんだろうな。
見た感じだと……あいつか。一人だけ豪華な鎧着てるし。
「魔法士。まだ時間がかかりそうか?」
「すみません、魔力の調整が上手く行かなくて……」
「急げ。早く本国に戻って立て直さねばならないからな」
あいつらの足元にあるのは……魔法陣か?
ネフィーのとは比べ物にならないくらい小さいけど、多分あれ転移魔法用の簡易魔法陣だわ。
なるほど、あれで一気に自国まで帰ろうとしてるのか。
うーん。あの位置ならまぁ、いけるか?
一対三だが、この作戦なら何とかなるだろ。
無理そうなら全力ダッシュで逃げるのみ。
という訳で。ちょっと頑張ってこい! さっき捕まえた毒蛇ちゃん!
そぉらよっと!
「うわ!? なんだ!?」
「さっさと離れ……ぐわぁッ!?」
「司令官! くそ、こいつめ!」
おーおー、思ったより大混乱だな。
やっぱりお偉いさんなんてもんは、蛇にも慣れてない奴が多いよな。
俺みたいな底辺だと山で野宿とか当たり前だから慣れ切ってるもんだが。
ていうか敵を噛んだのか。偉いぞ毒蛇ちゃん。
んじゃ左手で土を握り込んで、後ろからこっそり近づいて……右手の剣で、てぇりゃ!
「ぐはっ!?」
はい一人目。
「な、なんだこいつ!? いったいどこから!?」
うるせぇな。喰らえ、目つぶし!
「うわっ!? 何も見えな……かはぁッ!?」
よーし、これでお終いだ。お偉いさんは蛇に噛まれて動けないしな。
何とか怪我も無く乗り切れたな。
いやぁ、蛇ちゃんが良い仕事してくれたわ。
卑怯? それは敗者のいい訳だよ、キミ。
ふははは! 世の中、勝てば正義なのだ!
「……おい、聞いているか? 貴様は敵国の者だろうが、頼みがある」
お、なんだなんだ? 敵のお偉いさんが何か言い出したな。
そろそろ毒も回るだろうし、死に際の言葉くらい聞いといてやるか。
「私はもうじき死ぬ。だが、蛇の毒などで死んだとなっては一族の恥さらしだ。だから頼む、私の剣で私の首をはねてくれ」
殺してくれってか。昔も似たようなこと頼まれたことがあったな。
見栄とか恥とかプライドとかさ、そんなもんで腹が膨れるかっての。
人間なんて生きてこそだろ。死んだら全てが終わっちまうんだし。
でもまぁ、毒でジワジワ死ぬよりは楽な死に方ではあるか。
「分かった。お前の名前は?」
「……感謝する。ツェペリン・ロマンシアだ」
「覚えておく。じゃあな」
剣を両手で振りかざし、そして降り降ろした。
……相変わらず、嫌な感触だな。これは一生慣れたくねぇわ。
ふむ。しっかしコレ、良い剣だな。
報酬代わりに貰っておくか。
ブンと一振りして血を払い、そのまま構えてみる。
こうしてると自分が強くなった気がして気持ちが良いもんだ。
何か適当に格好良いセリフとか言ってみちゃおうか。
「見逃してやる。だが、次は無い」
おぉ、結構良い感じじゃね?
戻ったらネフィー達にも見せてやりたいくらいだわ。
あ、てかいい加減戻らないとな。
あっちも落ち着いてきたみたいだし、こっそり合流するか。
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