第十三話:岩山の戦場
さて、戦場に出てみたは良いものの。
これはまた、うーん。どうしたもんか。
俺が指定された戦場は小さな岩山。
切り立った崖のような地形になっており、兵が隠れる場所は無数にあるから防衛戦に向いてはいる。
更にここは主戦場の北に繋がっているらしく、敵を壊滅させれば南にある主戦場で味方との挟み撃ちが可能らしい。
ちなみに主戦場に出ている兵は二百で、敵は三百程なんだとか。
かなり分の悪い戦いだ。
つまりここでの戦いに勝てなければこちらの負けがほぼ確定するだろう。
こちらに来ている味方はざっと二十人ほど。そのほとんどが傭兵で、国軍の兵士は新兵が数人だ。
対して敵軍は六十人なのだとか。三倍だぞおい。
しかも魔法師が二十人いるらしいからネフィーの魔法による砲撃も正面からだと厳しいだろう。
「ふむ。貴様殿、どう出る?」
「これはさすがに無理じゃないっす?」
うん。俺も無理だと思う。
いくら地の利が自軍にあるとは言え、戦力差が三倍で敵は正規兵。
更にこちらは戦いなれているとは言え、ほとんどが傭兵で構成された寄せ集めの軍だ。
これではは連携なんてろくに取れないだろう。
マジでどうしたもんかなー。
何はともあれ、逃げ道だけは確保しておきたいから周囲の見回りをしたい所だな。
でもそんな格好悪いこと、ネフィー達に言えないしなぁ。
……よし、適当に誤魔化しておくか。
「ネフィー、辺りを散策してくる。味方の戦力の確認を頼んだ」
「それは良いが、一人は危険ではないか?」
「近場を回ってくるだけだし問題ないだろう。それにすぐ戻る」
心配してくれるのはありがたいけど、退路は調べておかないと怖いからな。
敵もまだ近くにはいないらしいし、ささっと調べて来てすぐ帰ってきたら大丈夫だろ。
※
ふむ、これで一通り見終わったな。
逃走経路も確保出来たし、さっさと帰りますか。
しっかし、本当にどうしたもんかね。
事前に聞いた感じだとこっちの戦場が勝てば主戦場も勝ち目は出てくるだろう。
でも戦力差が三倍ってかなり厳しいんだよな。
まともにやったらまず勝てないし。
うーむ。どうしたもんか……っと、あれ?
あそこになってる果物ってルビーフルーツじゃねぇか?
うっわ、高値で取引される希少な果物がこんな所にあるとは。
これはついてるな。取れるだけ取って持って帰ろう。
あ、でも結構高い位置になってるな。
これは木を登らないと手が届かない。
かと言って切り立った崖の上だし、登るのはかなり怖いし。
……よし、剣を伸ばして落とすか。
石より固いフルーツだし、地面に落としても問題無いだろ。
よっと。ふんぬ。そいやっ。
……うーん、中々落ちないな。
こうなったら思いっきりジャンプして……ほいっと!
よっしゃ、届いた……あ。
やべ、足元に地面がない!? 落ちる!?
「ぎゃあぁぁあああ!?」
くっそ、こんな間抜けな死に方は嫌だあああ!!
■視点変更:アマルガム兵■
隠密行動作戦は今のところ上手く行っているようだ。
コランダムの連中も、まさかこんな所を通って来るとは思わないだろう。
何せ馬も通れないほどに狭いし、横は岩と崖に挟まれているような道だ。
だからこそ警戒が緩いと予想してたが、当たりだったみたいだな。
コランダムの連中はネレイド将軍以外は大した脅威じゃないし、奴のいないこの地点は楽に勝てるだろう。
敵の拠点を大回りして背後から奇襲、これでケリが着くはずだ。
速度を重視したから革鎧で兜も無いが、奇襲する分には問題ない。
それにこちらの奇襲部隊の数は二十人。敵全軍と同数で、更に魔法師だって十人も連れて来ているのだ。
これで負ける理由が無い。
そう思いながら行軍していた時、頭上から何かが聞こえてきた。
「――ァァアアアッ!!」
それが雄叫びだと気付いた時には、既に。
奇襲部隊の先頭を歩いていて小隊長は脳天を剣で貫かれていた。
「なぁっ!?」
突然の出来事に俺たちは何が起こったか理解できず、落ちてきた男を呆然と見つめる。
男は、嗤っていた。
その禍々し姿を見て、ようやく我に返って叫ぶ。
「て、敵襲――」
だが次の瞬間、頭上から大量の石のような何かが降ってきた。
咄嗟に飛び退いた俺以外は直撃してしまい、悲鳴を上げながら崖から落ちていく。
俺も利き手に直撃してしまい、剣を取り落としてしまっていた。
馬鹿な……罠を仕掛けていただと?
俺たちの行動が読まれていたっていうのか!?
落ちてきた男は動揺する俺を見ると、魔獣のような獰猛な笑みを浮かべて剣を構える。
そして返り血を拭いもせず、嬉々として語りかけてきた。
「よう、生き残ったんだな」
その言葉に背筋が凍り、気が付けば俺は全力で逃げ出していた。
くそっ! あんな化け物がいるなんて聞いてねぇ!
たった一人で二十人の奇襲部隊を倒す化け物なんて情報になかったぞ!?
ともかく情報を持ち帰らないと……そうだ、俺はその為に撤退してるんだ!
自分自身に言い聞かせながら、俺は一目散に走って行った。
■視点変更:ネフリティス■
傭兵たちから話を聞いていると、少し離れた場所から大勢の悲鳴が聞こえて来た。
何事かと思い数人の兵を連れてその場に急行すると、そこには血だらけのジェイドが立ち尽くして居た。
「ネフィーか。済まないが何か拭くものをくれ」
「貴様殿! 何があった!?」
「大丈夫だ。怪我も無い……それに、もう終わった」
ジェイドが崖の下を指さす。
そこには、二十人程の敵軍の亡骸が転がっていた。
まさか……敵の奇襲を読んで一人で殲滅したのか!?
確かに通常ならば考えられぬ事態だが、それを成したのがジェイドなら納得が行く。
この男にとっては容易い戦いだっただろう。
……しかし、だ。
「貴様殿、何故我に言わなかった?」
一人であればいくらジェイドでも危険はあったはず。
今日会ったばかりの傭兵たちはともかく、敵と戦う事を我にも言わなかったのは心外だ。
我とて誇り合るエルフの一族。ジェイドの背を守るくらい訳も無い。
もしや……我も信頼されていないのだろうか。
そう思い悩む我を見て、ジェイドは苦笑を漏らす。
「何も危険は無いはずだったんだ。それにネフィーが怪我でもしたら困るからな」
……なんとも呆れたことだ。そんな理由でこの数の敵を屠ったと言うのか。
ジェイドにとっては大した事では無いのは理解出来る。出来るのだが……
いかん、ここは二度とやらぬように釘を刺さねばならんのに、つい顔がにやけてしまう。
ジェイドが我を大事に思ってくれている。
その事実がこれ程までに嬉しいとは。
「貴様殿。その、な。気持ちは嬉しいのだが、あまり無茶はしないでくれ」
「すまない。次からは気を付ける」
まるで子どものように謝るジェイドの姿に思わず胸が締め付けられる。
無類の強さを見せ付けながらも、我の前ではこうして弱い部分を見せてくるとは……こやつは本当に、どうしようも無い男だ。
これでは我も強く言えぬではないか。
むう……ひとまずお説教は後にして、我自らジェイドの汚れを拭ってやるとするか。
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