第十二話:王女様のお願い


「こんな物しかお出しできませんが」

「すまない。しかし本当に敬語は必要ないのか?」

「はい。こちらがお願いする立場なので」


 王女様直々に高級な紅茶と手作りらしきクッキーを振舞ってもらうのはかなり恐縮するんだが。

 しかも敬語無しとかどんな罰ゲームだよ。


「しかし貴様殿は冷静だな。少しは緊張する姿を見られると思ったのだが」

「あたしはめっちゃ緊張してるっすよ。ジェイドさん凄いっすね」


 いや、顔に出ないだけです。

 今にもガタガタ震え出しそうです。


「それで、話と言うのは?」

「はい。そのお力を我が国にお貸しして頂きたいのです」

「そういう意味だ?」

「一からお話致しますね」


 今にも消えてしまいそうな儚げな微笑みを浮かべながら椅子に座ると、王女様は地図を取り出して見せた。

 その様子にネレイド将軍がしかめっ面で口を挟む。


「アルマディン様……彼は部外者ですぞ」

「ネレイド将軍。このままでは我が国は滅亡の一途を辿るだけです。それならば現状に何か一石投じるのは無駄では無いですよね」

「……それもそうですな。元より退路は無いのでした」

「えぇ。何もせずに死ぬか、足掻いて死ぬか。私は後者を取りたいのです」


 何か物騒なこと話し始めたんだが。

 いやいや、そんなことに俺を巻き込まないで欲しいんだけど。

 うーん。このまま帰してくれそうにも無いし、話だけでも聞いてみるか?


「こちらの地図をご覧ください。これが現状の勢力図です」

「この青いのがコランダム王国か?」

「はい。見ての通り、滅亡間近です」


 だろうな。青い箇所って殆ど無いし。

 となるとこっちの赤い箇所が隣国のアマルガム帝国か。

 確かにこのままアマルガム帝国と争ってたら一年もせずに国が滅ぶだろうな。

 しかも次の戦いは防衛戦だ。突破されたら敵兵は王都まで一直線に進んでくるだろう。

 

「これ以上の巻き返しは不可能です。かなりの数の兵を失っていますし、兵站も底を尽きます」


 最前線で戦う兵隊の為の食料も確保できない、と。

 そもそもその兵隊自体が用意できないとなると、確かに詰んでるなこれ。

 せいぜい傭兵を雇って王族が逃げる時間を稼ぐくらいしか……あ。

 なるほど、そういう事か。


「ふむ。つまり王女殿下が逃げる為の時間をジェイドに稼げと?」

「ネフリティス様、それは違います。ここで逃げても周りは全て帝国領。すぐに見つかって斬首されるでしょう」


 あれ、違ったのか。じゃあどうしろって?

 そう思いながら王女様に目を向けると、こくりと頷かれた。


「ジェイド様には戦場に出て、我が国を救っていただきたいのです」


 思ってたより滅茶苦茶なこと言い出したな!?


「つまり国の命運を流れの傭兵に任せると言うのか」

「はい。お受けしていただけませんか?」


 おいおい、とんでもないなこの王女様。

 そもそも傭兵なんてものは金さえもらえば何でもやる奴らだ。

 昨日敵軍だった奴が今日は味方、何てことは珍しくも無い。

 そんな信頼できない奴の力を借りようだなんて、コランダムは本当に滅亡寸前なんだな。

 だがまぁ、それはそれとして。


 いや、無理無理。そんな責任が重そうなことやりたくねぇよ。

 それに負けが決まってる戦争だろ? 勘弁してくれよ。


 何か断る手は……そうだ、報酬!


「しかし報酬はどうするんだ? 俺の雇用報酬は高いぞ?」


 さぁどうだ。報酬が高いなんて大嘘だけど、これできっと諦めてくれるはず。

 

「報酬は私で如何でしょうか」

「王女様が? どういう事だ?」

「そのままの意味です。私の全てをジェイド様へ捧げます」

「この話、乗った」


 こんな美少女が俺のものになるとか断る理由が無い!


 ……あ、やべ。つい反射的に返事しちまった。


「いや、やっぱり今のは――」

「貴様殿、やはり受けてしまうのか。貴様殿は全く救いようの無いお人良しだな」

「ちがっ――」

「負けが決まっている戦と分かり切っておるだろうに。だが、うむ。貴様殿はそうであろうな。助けを乞われてしまっては見捨てられまい」


 待って、俺の話を聞いて。

 いま断ろうとしてんだろうが。


「もちろん我も参戦しよう。アルマディンとやら、任せておくが良い。何せジェイドは最強じゃからの」


 え、ネフィーさん引き受けちゃうんですか?

 ちょっと待って、考え直そうぜ。戦争の最前線で戦えってことだよこれ。


「あ、じゃああたしも乗るっす。楽しそうなんで!」


 ミレイも!? つーか楽しそうって凄いなお前!?


「皆さま……ありがとうございます」


 あああああ!? 美少女が涙目で微笑むのは反則だろ!?

 くっそ、本気で逃げ場がないじゃねぇか!

 ……ええい、こうなったら仕方ない!


「俺達に任せておけ」


 もうやるだけやってみるか。

 なぁに、こっちには対城用広域魔法を使えるネフィーがいるんだ。

 適当にぶっ放してもらえばきっと何とかなるだろう。

 最悪の時は王女様を連れて逃げちまえば良い。


 王女様一人だけなら辺境の村とかに連れていけば何とかなるかもしんないしな。

 将軍? おっさんなんて知った事か。

 俺はいつでも自分の命と金と可愛い子の為にしか働かん!


「私の事はアルマとお呼びください。よろしくお願いします『剣聖』様」


 そう言って微笑む王女様。

 うん、可愛い女の子の頼みだし、死なない程度に頑張るか。

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