第九話:お誘い


 エルフの集落には珍しいモノがそれなりにあった。

 人間の街では使われないような魔導具だったり、初めて見る植物で作られたカゴだったり。

 中でもミレイが注目したのはエルフの保存食だった。

 普通の料理を小分けにし、そこに状態保存の魔法をかけるのだという。

 これによって食べ物が腐る事も無く、いつでもとれたてのモノを食べられるんだとか。


 やり方を教えてもらったけど、複雑すぎて俺には使えなかった。

 何故かオムレツを焦がしてしまう始末だ。やはり俺に魔法の才能はないらしい。

 ミレイも無理だったのか少し不貞腐れてる。

 ぷくっと膨らんだほっぺたが可愛い。これ突いてみたいなー。


「エルフって凄いっすね。うちとは大違いっす」

「いえいえ、ドワーフだって立派な製鉄技術をお持ちではありませんか。我々はお酒はあまり飲めませんけれどね」

「エルフは酒に弱いんすか?」

「あまり強いエルフはいませんね」


 へぇ。そういやネフィーも記憶無くしてたもんな。

 こんなところにも種族差があるってのは面白い話だ。


「と言うかミレイは飲めるのか?」

「あたしっすか? そこそこっす」


 そのロリな見た目で酒が飲めるのか。

 いや、他種族だから見た目は当てにならないけど。


「あ、その眼は疑ってるっすね? 何なら飲み比べしてみるっすか?」

「それは構わないが……俺は大して強くないぞ?」

「じゃあ良い勝負になるんじゃないっすか? 負けた方は勝者の命令を一つ、何でも聞くってのでどうっすか?」

「乗った」


 今なんでもって言ったよな? なんでもって言ったよな!?

 これはチャンスだ。つまり飲み比べに勝ったらどんな要求でもやりたい放題という訳だ。

 ここはやはり、ずっと気になっているシャツの中を見せてもらうのが良いだろうか。

 いや待て、それよりもツナギの下を全部見せてもらうってのもありだな。

 そして酒の勢いでそのまま同じベッドに入って……


「まーあたしなんて樽一個しな飲めないっすからね」


 ふざけるな! 男の純情をもてあそびやがって!


「単位が樽なのか……ドワーフは酒に強いと聞くが、本当だったんだな」

「水より酒を飲む種族っすからね」


 どんな種族だよそれ。

 でも確かに大酒呑みなイメージはあるな。

 あとなんか職人気質なやつが多そう。


「ともかく今夜は期待してるっすよ」

「……あぁ、そうだな」


 ステキな言葉だけど夢も希望もないな。

 いや、でも諦めずに頑張ればワンチャンあるのか?

 くっそ、こんなことなら状態異常解除の魔法とか習っておけばよかった。

 酔いに効くかは知らんけど。


「……貴様殿。今の話、詳しく聞きたいのだが」


 そんな事を真剣に考えていると、不意に後ろから声を掛けられた。

 いつも通り天使みたいな声だけど、何故か少し不機嫌そうだ。

 振り返ると予想通り、超絶可愛いネフィーの姿がそこにあった。

 胸の下で腕を組んでることもあって非常にエロイ。


「ネフィー? 家族と話をしていたと聞いていたが」

「とうに終わったわ。貴様殿を探していたのだが、まさか我の知らぬ女と出歩いているとはな」


 うん? なんか怒ってないか?

 あ、そうか。エルフの里にドワーフがいたらそりゃ怪しむわな。


「こいつはドワーフ族のミレイだ。エルフと交易の取り決めをする為に集落から来てもらった」

「交易だと……? そうか、そのような手があったか。いかんな、我も定石に囚われ過ぎていたようだ」


 顎に手を当てて何かを考えているようだが、細い腕が胸にめりこんでいて非常に素晴らしいことになっている。

 いいぞ、もっとやれ。


「あたしはミレイっす! よろしく頼むっす!」


 おぉっと!? 元気に飛び跳ねたせいでシャツの中身が……見えない、だと?

 どうなってんだ、なぜ見えない。

 ぷるんって揺れたのは見えたけど。


 くそ、二人とも微妙なエロは提供してくれるのに決定的な所はお預けかよ。


「我はネフリティス・グリーンランドだ。貴様、ジェイドとはどのような関係だ?」

「関係? 今日知り合ったばかりっすね」

「……そうか。ならば良いのだ、うむ」


 おっと、いきなり上機嫌になったな。

 何かよく分からんが、やっぱりネフィーは笑ってる方が可愛いわ。


「貴様殿。宴の準備が整うまで今少し時間があるし、それまでは我が里を案内しよう」

「それは助かるが、良いのか?」

「我が望んで行うのだ。問題でも?」

「いいや、大歓迎だ」

「うむ。ならば良い」


 うお、最高級の笑顔いただきました!


 改めて見るとやっぱり可愛いんだよな、ネフィー。

 本当にオーガを倒したのと同一人物なのかね?

 俺には天使にしか見えないんだが。


「では行くとしようか、貴様殿」


 おっと? え、なに、腕まで組んでくれんの?

 サービス良すぎじゃないですかね。

 うわぁ、ほんのり温かくて良い匂いがする。

 

「あたしも着いて行って良いっすか?」

「うむ、貴様も客人には変わりない。存分に楽しんで欲しいからな」

「感謝するっす!」

「しかしジェイドとは一定の距離を取れ。良いな?

「……ははーん? なるほど、了解っす!」


 え、うそだろ。ネフィーの中で俺って不審者扱いなの?

 いや確かにミレイの胸元を覗こうとはしてたけど。

 あわよくばとか思ってたけど。


 ……うん。どう考えても不審者じゃねぇか俺。

 

「あぁそうだ。王都への旅の同行者なのだがな。わ、我が行くことになったぞ! 別に頼み込んだりはしておらぬが!」

「そうなのか。それは嬉しい限りだ」

「そうか、貴様殿に喜んでもらえると、その……嬉しいものだな」


 やだこの子可愛い。ちょっと頬が赤くなってる美少女はクるものがあるなぁ。

 なんだかそっちの性癖に目覚めてしまいそうだ。

 何にせよ、まだしばらくはネフィーと一緒にいられるのか。

 こんな幸せが続いても良いのかね。


「あ、じゃああたしもご一緒するっす。ネフィーさん、協力するっすよ」


 おお、じゃあ美少女二人と一緒かよ。最高じゃねぇか。


 顔に出さないように気を付けながらひそかに喜んでいると、ネフィーが腕をきゅっと強めに掴んできた。


「貴様殿とは我が一番最初に出会ったのだ。忘れる出ないぞ?」

「は?」

「分からずとも良い。とにかく、ゆめゆめ忘れるでない」

「よく分からんが、分かった。ネフィーが一番なんだな」


 確かにミレイより先に出会ってはいるしな、なんて軽い気持ちで復唱したんだが。

 何故かネフィー顔を真っ赤にさせて俯いてしまった。


 え、何か怒らせるようなこと言ったか俺!?


「貴様殿はその……ずるい」


 潤んだ瞳での上目遣いに震える声で言われ、腕をさらに強く引き寄せられる。

 凄まじい柔らかさが腕に伝わってくるのを感じ、その魅力に耐え切れずに横を向いてしまった。

 まずいまずいまずい! ネフィーさんが今までにないくらい可愛いんだが!?

 よく分からんが、しかし可愛いは正義だ。

 ここは黙って堪能しておくとしよう。


 しかしこの調子で一緒に旅なんかして、俺の理性は持つんだろうか。

 下手したらまた魔法ぶっ放されるかもしれんし、慎重に行こうぜ俺。

 

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