第八話:エルフ目線とドワーフ目線
■視点変更:レリウス■
人間とは愚かな種族だ。
同族で争い、他者を陥れる事でしか生きることの出来ない哀れな者達。
私はずっとそう思っていた。
しかしそれは私の見分が狭いだけだったのだ。
あの方、ジェイド殿と話してそれがよく分かった。
私はかねてよりの懸念事項であるドワーフとの共存に関して頭を悩ませていた。
彼らとは先代の頃から長きに渡って隔たりがあるが、我らはそれを良しとはしない。
隣人である以上は一定の交流を持つべきであると考えるからだ。
しかし彼らはそうではないようで、何度使者を送っても突き返される日々だった。
そんな折、里唯一のハーフエルフであるネフリティスが狩りの最中に身をくらませたとの報告が上がって来た。
若いエルフが里からいなくなるのは良くある事だ。
経験を積むまでは調和のとれた環境の素晴らしさを理解できず、外の世界を渇望する事がある。
だが数百年もすれば帰ってくるだろうと、そう考えていた。
しかし彼女は数日後、見知らぬ人間と共に里に帰って来た。
聞けば人間の兵に拉致されていたのだとか。
我らエルフが人間に後れを取るなどそうそう無い。余程の事態だったのだろう。
予想外の事態に思わず息を呑んでしまった。
更には、同胞のネフリティスを人間が救い出してくれたと言うではないか。
私は興味が沸き、礼を伝える事も兼ねてその人間に会ってみることにした。
最初は侮っていた。相手はたかが数十年も生きていない人間の若者だ。
年長者を敬うことも出来ない礼儀知らずに呆れながらも、しかしこちらが礼を尽くさない訳にはいかない。
表面上は丁寧に接しながらも、私は少し意地の悪いことを思いついた。
我らエルフが長年に渡って果たせない命題。
それをこの人間に対して投げかけてみようと。
この愚かな若者がどのような答えを出すのか。それを考えるだけで胸の空く思いだった。
しかし、本当に愚かなのは私の方だった。
彼の答えは、長き年月を生き慣習を貴ぶ我らの盲点だった。
手を取り合う理由を作るという観点を持って、あっさりと問題を解決してしまったのだ。
目から鱗が落ちるとは正にこの事だろう。
人間だから、ではない。過去に似たような問い掛けをした時、人間の老人は見当違いな答えを返して来たのだ。
つまりはそう、私の見る目が曇っていたにすぎない。
知識を有効に生かしてこその知恵。知恵ある者こそが賢者。
つまり彼こそが真の『賢者』だったのだ。
しかし困ったことに、表面上は既に礼を尽くしてしまっている。
この状態で私の浅慮の非礼を詫びるのは彼にとっても失礼に当たるだろう。
何故なら彼はそんな私の思慮すら見通しているのだろうから。
報酬と称して賢者の証であるエルフ秘伝の魔導具を継承する事。
私が見せることの出来る唯一の誠意がそれだった。
彼にならばエルフの業を救ってもらえるかもしれない。
そう考えて頼み込んだ願いに対しても彼は快く引き受け、更に報酬はいらないと告げてきた。
我らエルフとドワーフの協調。その事で産まれる様々な事象。
それこそが人間にとっても理のある事であり、それ自体が報酬であると言外に伝えてきたのだ。
頭の上がらぬ思いだった。この者はどれほどの叡智を蓄えているのか。
我らは語り継ごう。エルフは未だ世界の最奥に達していない。
『賢者』ジェイド。我らが目指すべきはあの若者なのだと。
■視点変更:グランド■
人間って奴はよ、自分の利益を最優先にする奴らなんだ。
上手い話を持ってきてはいつもワシらを騙そうとしやがる。
器用に色んなことをやっているが、一つの事を突き詰めることができない。
そんな中途半端でタチの悪い連中だと思っていた訳よ。
だがな、ジェイドって野郎は違った。
最初は肝の据わった若造が来やがったな、くらいにしか考えてなかった。
うちの連中に囲まれても顔色一つ変えなかったときたもんだ。中々やるもんだなと思った。
だが、あの高慢なエルフが頭を下げた人間と聞いちゃ話は違ってくる。
どんな野郎かと思って直接話をしたくなったのさ。
そして結果的に、その考えは間違っていなかった。
あの野郎はまっすぐな目をしていた。
その瞳には強い意志を感じた。
しかもここに来た理由がエルフとワシらの中を取り持つためってんだから、まぁ驚いたな。
長く続いていたエルフ連中とのケンカも一発で終わらせちまいやがった。
エルフからの依頼とは言えワシらも助かったのは事実だ。
こちらからも何か礼をと思ってたんだが……後で来たエルフが言うには、あの若造はエルフからの報酬も受け取らなかったらしい。
そう、人間がだ。あの強欲な人間がだぞ? エルフやドワーフの報酬を受け取らないって来やがったんだ。
自慢じゃないがワシらの武器は世界一だ。エルフの連中も魔法に関しては最上級を誇る種族だ。
それをお前、ただの人間の若造が断りやがった。
エルフに聞いた話じゃワシらが仲良くするのが一番の礼なんだとよ。
こんなに気持ちの良い話は今まで聞いたことも無かったわな。
おい、こういう奴をなんて言うか知ってるか?
自分の利益も考えないで誰かの為に動く奴をな、世の中じゃ『聖者』って言うんだよ。
『聖者』ジェイド。良い響きじゃねぇか。あいつにはぴったりの名だ。
もしあいつが何か困ってたらワシらに出来る限りで力になる。
それが俺達の感謝の表し方だ。その日の為にまだまだ腕を磨いておかないとな。
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