ナポレオンは眠らない 2



「昔さあ。よくとカップ麺食べたよね」


 黒と緑。

 テーブルに並んだ二つの器に、やかんのお湯をとぽとぽ注ぎ入れる。それぞれ箸で蓋をして、二人並んでテーブルにつく。3分経つのを待っているうちに、ふと、そんな言葉が口からこぼれた。


「ああ、そういえばそうだな」

「あーあ、教授がここにいればなあ。勉強教えてもらえたのに」

「やめとけ。高くつくぞ」

「それもそうか……」


 確かにあの人なら、孫からも金取るわ。


 思い出補正で美化されかかっていた「教授」——もとい我らがおじいさまのイメージを、おずおずと脳内で訂正する。あれは確かに、闇雲に人を和ます、御涙頂戴要員のマスコット的な年寄りなどでは決してなかった。むしろ平然と嘘をつき、屁理屈を通し、「早く死ね」と人に言われてない日がないほどの、狡猾で強かな狸親父であった。

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