たぬき星の力学
名取
ナポレオンは眠らない 1
かのナポレオンは、1日にわずか三時間しか眠らなかったという。
でも私みたいな凡人には、そんな睡眠時間じゃ「普通に無理」というものだ。その時の私は、ものすごく疲れ果てていて、今にも倒れてしまいそうだった。
そして実際、倒れた。
「お前、馬鹿か?」
そして目が覚めたときには、自分の家のソファに寝かせられていた。
上を向いた視線の先では、こちらを見下ろすように仁王立ちした双子の兄が、開口一番、そんなツンデレムーブをかましてきた。
「あれ……兄貴じゃん。どした?」
「『どした?』じゃねーよ。お前、学校から帰るなり、急に玄関でぶっ倒れたんだぞ。ついでに頭でも打ったのか? あ?」
そう言われて、思い出そうとするが、ほとんど記憶がない。でも朝学校に行って、昼に帰ってきたのは確かだと思う。行事の関係で早く帰れる日だから、印象に残っていたのだ。
「ごめん。ほぼ意識なかったわ」
「ハァ……いくら来年受験だからって、今から頑張りすぎて倒れてたら意味ねーだろ。この勉強バカ」
「えへへー。すまんのう」
「全く手間かけさせやがって。大体な、自称進学校なんて、大概がブラック体質なんだよ。生徒のことなんか、自分の自尊心を満たすための道具としか思ってねーんだ、あいつらは」
ため息混じりにそう言って、兄はソファの肘掛けのところに腰掛けると、ゴソゴソとレジ袋からカップ麺を出して見せた。
「というわけで、お前には赤でも緑でもなく、黒のカレーうどんが相応しい。さあ食うぞ。俺はいい加減腹が減った」
「えっとごめん。確かに私カレー好きだし、兄貴が看病なんて感涙ものだけど、病み上がりに刺激物はちょっと……」
「チッ、注文の多い奴め。じゃあ俺がカレー食うから。お前はどっちにする?」
レジ袋から赤と緑を取り出して見せる兄に、少し迷って「緑」と答えた。
「……って、結局天ぷら食うのかよ」
「この天ぷらはサクッと軽いから実質0カロリー」
「仮にも物理選択者が口にしていい理論じゃねーぞ」
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