赤のきつねと緑のたぬきよりも○○○○を~大学の思い出はカップラーメンと共に~
漣職槍人
赤のきつねと緑のたぬきよりも○○○○を
「だ~か~ら~」
無駄に伸ばした強調に続くのは東北県民の愛するカップラーメンの名前だった。
「焼きそばバゴォーンを食べるべきなんだって!」
東洋水産株式会社が販売するカップラーメンブランド・マルちゃん製麺の『焼きそばバゴォーン』を青森県出身の俺・
「一度食ってみろって。湯切りのお湯で作るわかめスープ付きだぞ」
「う~ん。関東圏で売ってる焼きそばと何が違うんだ?」
乗り気じゃないながらも興味を持てそうな部分はないかと野沢は聞いてくれる。ネットで調べた情報を思い出す。
「他よりは辛く無くて甘くない?ごめん。よく考えたら他も食べたことあるんだけど。結局すきなやつに偏るから違いが上手く説明できないわ」
「あ~わかるわかる。俺もカップラーメンは汁物派だから焼きそばの違いいわれてもピンとこないんだわ」
なるほど。あまり焼きそばのカップラーメン食べないのか。じゃあもっと入り易い東洋水産のカップラーメンから切り崩してみたほうがいいか。激めん?紫パッケージのワンタンメンのカップラーメンが思い浮かぶ。でも俺的にマルちゃん生麺といったら・・・。赤と緑。きつねとたぬきが思い浮かぶ。
「『ラーメン』と『そば』と『うどん』ならどっち?」
「あれ?焼きそばの話どこいった?」
「いや。まずは同じメーカーのカップラーメンから入って貰おうかと思って」
「興味を持ってもらって他もで焼きさばも?」
「そういうこと」
「あ~なら今の気分なら『そば』か『うどん』かな?」
「分かった。どっちも買ってくる。食べ比べしよう」
ちょうど今日は昼一の講義が無い。せっかくだから地元出身(岩手)の仲間も巻き込んで『赤いきつね』と『緑のたぬき』を各三個買って食堂に六人集まる。
どんぶり型の器に引かれた線までお湯を注ぐ。
「お揚げはいいとして、緑のてんぷらはどうする?」
『う~ん』
後乗せサクサクか、一から汁を染み込ませるか。大学生にもなってみんなで真剣に悩む。
「別に時間経てば汁は染み込むんだから後乗せでいいんじゃね?」
『それだ!』
後乗せが確定した。みんな成人間際な大学生だっていうのにこうやってノリでバカできるから楽しい。そのまま雑談して待ってたら携帯のアラームが鳴った。
「時間経ったし食おうぜ」
好きなのを取って蓋を剥がす。野沢はそば派なのか先に緑のたぬきを取っていた。てんぷらを乗っけて汁の濃度が均一になるように箸で円を描いいてかき混ぜる。まずは一口汁を啜った。
「あ~緑のたぬきうめ~」
汁をすすった後に小エビてんぷらをサクサクと齧る。危機感を覚えて俺は待ったをかける。
「待て野沢!そのままじゃてんぷらが無くなる。汁を染み込ませてふやふやになったてんぷらもいいもんだ。掴み辛いしバラケちゃって食い辛くはなるし、汁を飲み干さない限り最後まで取り込めない難点もある。それでも俺は汁を吸ったふやふや派なんだ!」
「あつっ!?」
「矢田が熱々の汁を吸ったお揚げでやけどしたぞ!」
「バカな。赤いきつねのお揚げは火傷増産マシーンなんだぞ!?汁を吸ったお揚げにかぶりつくなんて・・・」
水で火傷した舌を冷ました矢田は地元出身だ。こんな失敗をするはずが無い。
「しかたないだろ。俺は最初のお揚げの甘い汁が好きなんだから」
確かに赤いきつねのお揚げは時間と共にお揚げにしみこんだ甘い汁が徐々に外に出てしまう。早いうちに甘い汁を楽しむか、それとも汁に染み出させて汁を楽しむかは個人の自由だ。
「でも舌火傷したら味わかんなくね?」
「まあな」
矢田は舌の傷も覚めやらぬうちにうどんを啜る。なかなか強い舌をお持ちのようだ。
「ほら、比べるんだろ。温くなる食おうや」
確かにそれもそうだ。温くなったら交換する相手にも悪いし比較しづらくなる。
自分の手元にある緑のたぬきのてんぷらに汁を染み込ませてる間にそばを啜る。鰹出汁に甘味のあるしょっぱさがおいしかった。そばなのに縮れ麺で個性もある。うどんだって幅広なくせに厚みはそれほどないのにコシがある。どちらも火薬を入れてお湯を入れるから麺に味が染みていて麺を口に入れた後も味がするのがいい。学食のそばじゃこうはならない。
『赤いきつね』と『緑のたぬき』も子供の頃から食べてると経験で旨いのが分かってるから下手に味わって比較することがない。こういう機会があって初めてじっくり味わっているような気がした。
その後みんなで『赤いきつね』と『緑のたぬき』の食べ方の議論が始まり、いつしかきつね派たぬき派に仲間は分断されつつも、最終的にはどっちもおいしいよね、で落ち着いた。
さすがだ。さすがは全国展開。地方限定の『焼きそばバゴォーン』とは違う。全国で販売できる万人受けの味は伊達じゃないな。『赤いきつね』『緑のたぬき』には敵わないか。赤と緑があったら確かに焼きそばに手が伸びづらい。
そう負けを認めて意気消沈したときだった。
矢田が急に思い出してとんでもないことを口にした。
「そういや。『緑のたぬき』『赤いきつね』って東日本と西日本でスープ違うらしいぞ」
「え?」
「ほらカップラーメンの成分表近くに『E』ってあるだろ。これ
ピタリと東北の動きが止まる。あ、しまった、と矢田が気づいたときにはもう遅かった。
「やっぱり焼きそばバゴォーン食おうぜ」
東北の『焼きそばバゴォーン』押しが再会されたのだった。
しかし残念なことに食後なので、また今度。それも流されてしまった。
その後、野沢が卒業までに『焼きそばバゴォーン』を食したかはいまだなぞのままである。
また、東京の就職先で再び会社の同期と『焼きそばバゴォーン』のやり取りが起きることをこのときの東北は知らない。しかも今度は北海道限定の『焼きそば弁当』が混ざってくるなんて夢にも思わないのである。
赤のきつねと緑のたぬきよりも○○○○を~大学の思い出はカップラーメンと共に~ 漣職槍人 @sazanami_611405
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